ワインや料理を楽しむためのマナー、豆知識を紹介します。

グラスの話1

 

 

 

 

ベネチアングラス


―大運河に三度日が昇る-

グラスの旅は水の都ベニスのガラス工芸細工とまいりましょう。
その前のちょっとベニスの街を散策。ベニスの街を代表する観光施設がカナル(運河)。Sの字に蛇行する大運河を中心に血管のように街中に広がっています。
日中の観光客の喧騒を避けて、早朝のベニスの散策を楽しんでみませんか。サンマルコ広場から早朝5時台最後のヴァポレット(水上バス)1番線にリアルト橋に向かって乗り込みます。サンマルコ広場の屋根腺から、太陽が線香花火の火をともしたように真っ赤な小さな点となって登場し、ベニスの朝を告げます。ヴァポレットの船尾のオープン席に座り、早朝の澄んだ空気と背後から昇る朝日を見ながらバスはアカデミア橋へと向かいます。アカデミア橋はベニスには珍しい木造の大きなアーチ式の橋です。アカデミア橋に差し掛かるころ、今度はベニスの観光の中心である次のリアルト橋を見るために船首のオープン席に移動します。リアルト橋はフィレンツェのポンテベッキオ橋と並び称せられるイタリアを代表する観光の名所である。この橋から見る大運河の両サイドのビューが大運河の中でも秀逸なポイントです。当然日中は橋の上には露店が立ち並び、観光客の往来も激しく喧騒なポイントであが、早朝の静けさはまたべつものである。


その白い石造りのリアルト橋が姿を現そうとする時、なんとリアルト橋の上に突然、先程サンマルコで後にしたはずの日の出が目の前に現れるではないか!リアルト橋に近づくにつれてより赤みをまし、丸く大きく迫ってくる。大運河の水面に真っ赤な朝日の道を映し出し、見ている者をリアルト橋にいざなうかのような美しさである。それはまるで8月のベネチア映画祭でゴージャスに着飾った映画人たちをいざなう赤絨毯を想像させる。そこでは日中ベニスの主役となるゴンドラも、運河の両サイドに静かに並び赤絨毯を見守る観客でしかない。もちろん主役はヴァポレットに乗り赤い絨毯を進むあなたである。


サンマルコ広場を出た時背後にあった太陽が、船首から全く違う景色で突然目の前に現れるのには驚かされる。大運河の構造をご存じの方は簡単なカラクリにすぐ気が付かれるだろう。しかしカラクリより、全く違う情景から現れる日の出を2回も見ることができ、しかもその美しさには、早起きをしてちょっと得をした気になる。
では3度目の日の出はどこから登場するするでしょうか?それは皆さんで探してみてください(写真 7月2日1番線朝5時55分サンマルコ発 ローマ広場行ヴァポレット船上にて)。
ちなみにベネチア映画祭は8月にリド島の会場で開催される。会場までの赤絨毯の起点となり、VIPたちが集うリド島のお城のようなリゾートホテル、エクセルシオールから見るアドリア海を登る朝日も秀逸です。

 

前置きはさておき、グラスの旅はベネチアンガラスである。ある工房では、職人が最盛期に190人もいたのが今では1割にまで減っているとのことである。安いアジアからの工業製品に押され隆盛も過去のものとなり、技術の伝承もままならない状況のようだ。
ベネチアンガラスの特徴は何と言っても色とその形状である。もともとはローマ人が持ち込んだモザイクの技術が起源であるようだ。織りなす色と職人が作りだすガラスの流線美は確かに美しい。しかし日本で見るベネチアンガラスのイメージは、どこに行ってもホコリのかぶったまま放置されている置き物である。このようなホコリがかぶり放置されるベネチアンガラスの本質はオブジェであり、使用するためのグラスではない。思わず手に取りたくなる温もりがある日本の土の茶器とはちがい、距離を置いて眺めてはじめてその美しさを引き出す。

 


ベニスのムラーノ島の工房で作られるベネチアンガラスは、おおむね27~28%の非常の鉛純度の高いクリスタルを使用しているようだ。細かい細工をしやすくする為当然クリスタルの純度も高くなるのだろう。しかしクリスタルが至高であるという時代ではない。

ローゼンタールのような鉛の少ない素材でデザインを追求し、軽くて非常に手になじむグラスもある。

ベネチアンガラスは、たとえワイングラスであっても思わず手にとって使ってみたくなるグラスではなく、目で楽しむもののようだ。




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