ニュースレター
主筆:川津昌作
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そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。
AI技術革新と失業
〈2025年8月10日〉
要点
1. AIの普及に伴いウッキーペディアなど既存のサーチエンジン
が低迷しだした。技術革新による置換現象が出ている。
2. イギリス産業革命時、糸を作る紡績技術と糸を織る紡織技術さ
らには自動化技術がマッチングして技術革命の社会実装が起きた。100
年の期間を要している。
3. AIは既存のデータを検索する技術である。新なデータに対す
る要求が高まり、データづくりの技術革新が待たれる。まだ時
間も要する。
4.新しい技術の登場時には、置換労働が失業し生活困窮を生む。
先月のThe Economistで「ウェブサイトの災難は人間コミュニケーシ
ョンの災難(英字)」の記事が掲載されていた。内容はAIエンジンの登
場によりウッキーペディアなどのネット上のサーチエンジンへの訪問客が
軒並み減っているという内容だ。8%から酷いのになると15%減となっ
ている。
想定できる現象ともいえる。労働生産性を高める技術革新により生産性の
低い労働者が失業する。この場合は生産性の高いネット上のサーチエンジ
ンが生産性の低いサーチエンジンに取って代わられ失業する。衰退する。
市場から退場していく。
今回は、このことを18世紀のイギリスの産業革命を例にとり深堀してみ
たい。1733年にジョン・ケイが飛び杼を発明した。これが産業革命の綿
工業における技術革新の象徴的出発点となっている。
少し説明をしよう。アパレル産業の繊維の生産には原料となる糸があり、
その糸を布地に織り上げて裁断加工して製品化する。糸を作る過程で棒状
の糸巻き生産が紡績であり、布を織りあげるのが紡織である。
産業革命以前は機械でなく手織り技術であった。「鶴の恩返し」に出てく
る機織り機がこの人手による作業であった。この機織り機は、縦糸と横糸
を交差させて布地を織り上げる機械である。縦糸が交差する間に横糸を手
作業で左右に出し入れしてはたを織る。
ジョン・ケイの飛び杼(ひ)は、火薬を使いこの左右の行き来を手作業で
はなく、もっと速いスピードで左右に行き来できるように改善したもの
だ。これにより機織りのスピードが格段に上がり、紡織の生産性が高まっ
た。ところがそうとはならなかったのである。
糸を交差の織り込むスピードが速くなるにつれて、糸が切れてしまう現象
が出だしたのである。つまり織り上げるスピードに耐えうる糸の強さがな
かったのである。
次に、糸の生産技術の話である。糸は綿花綿を指先でつまんで細く引き延
ばし作られる。この時指でねじれを入れる。これが撚(よ)る作業であ
る。撚って作った糸を撚糸と呼ぶ。この撚りがないと強い糸ができないわ
けだ。
この撚糸を作る機械の発明は紡績機械技術になる。1764年ハーグリーブ
スによるジェニー紡績機、1769年のアークライトの水力紡績そして
1779年にクロンプトンの手動ミュール紡績機が発明される。実にジョ
ン・ケイの飛び杼が発明されてから40年の時間を要している。
40年間と言えば、当時のイギリスの人の寿命が30-40歳であった。つま
り生産年齢二人分の世代を要したことになる。いくら紡織機の技術が発明
されても、その原料となる紡績技術が伴わなければ、綿工業の産業革命は
実現していなかったわけだ。
更に、上記のように1779年に手動ミュール紡績機が登場するが、これが
当時並行して技術革新する蒸気技術による自動化するのが1830年であ
る。この手動紡績機の登場から、手動が自動化する期間こそが、産業革命
の技術革新の期間と定義がされる。
当時のデータでも、このように自動化が始まる1830年まではHand
Loomと呼ばれる手織り機が綿工業の主流を占めていた。1840年以降こ
の機械化した機織り機が4倍に増加し、手織り機が姿を消す。同時に
Spindlesと呼ばれる紡績機械が1830年以降倍増した。ジョン・ケイの
飛び杼が発明されてから実に1世紀以上を経ていることになる。
データ:BRITISH ECONOMIC GROWTH 1688-1959 CAMBRIDE,UNIV
もう一つ重要な史実として、イギリスロンドンの生活が、移民の流入、非
熟練労働の低所得化、低年齢児童の高死亡率などの理由で、生活困窮者が
増加し、最も低迷する期間がやはり1770年から1830年である。
紡織技術だけでなく、紡績技術が伴い、熟練労働と非熟練労働の置換が起
き始めてから、さらにそれらが蒸気技術革新により自動化し、本格的に成
熟した技術が社会実装されるまで、賃金裁定を通じて生活困窮時代が訪れ
た。
この史実を元にAI革命を考えてみよう。AIはデータのサーチスピード
を格段に引き上げた。ネット上に点在するデータを見つけ、つなぎ合わせ
て、新しいカスタマナイズしたニーズに合ったデータの検索のスピードを
格段に上げた。実際に翻訳が手軽に可能となり、検索だけでなく疑問の答
えを真偽に関係なく生成する。
しかしそれは、データそのものの生産に関する質、量を格段に上げたので
はない。データ、コンテンツの生産技術が既存のままであれば、実際のニ
ーズに対する答えは以前と大して変わらないものとなる。早くなっただけ
である。
データ・コンテンツ制作とAIによるサーチスピードのアップは、紡績と
紡織の関係にひとしい。データ、コンテンツは現在Web(ウエッブ)上
で保管されている。このWebへのサーチエンジンへの来場者が激減して
いるという内容がエコノミストの記事だ。
いずれにしても、データ・コンテンツの制作の生産向上技術が現時点では
まだ起きていない。先にAIのサーチ革命が起きたことになる。18世紀
の産業技術の紡績、紡織技術のマッチング進化に要した時間を見れば、今
のAIの技術革新は、紡織技術が登場したに等しい。紡績技術に相当する
ほんとの意味での情報革命はまだこれから先になる。
情報革命と呼ばれる技術が実際に社会実装されるのは、これからまだ数十
年かかるかもしれない。しかもこの先、イギリスロンドンの都会で見られ
た、機械化による低所得者、生活困窮者の増加、最低の下層階級社会を生
み出した時代を伴う事が想定できる。
エコノミストの記事のサーチエンジンの失業時代は、まさにこのロンドン
の都会が、移民、非熟練労働者の生活困窮者であふれ、最下層の巣窟と呼
ばれた暗黒の都市を生んだ時代への入り口かもしれない。
データ・コンテンツ、情報の本当の意味での生産性の向上となる革命的技
術が社会実装されて、それにより社会が裕福になるには、まだ何十年とか
かり、それまでの道のりは険しい「時代の新陳代謝」を乗り越える必要が
ある。
しかし産業革命による生活困窮時期を避けることなく、乗り越えたイギリ
スこそが、その後200年にわたり大英帝国、ブリタニカ帝国として世界
に君臨をする事となった。
以上
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