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主宰:川津商事株式会社
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2015-2016年末年始特別号「市場の罠」
〈2015年 年末年始特別号〉
「木材が底をついたから石炭に取って代わられたのではない。石炭
が少なくなったから石油に取って代わられたのではない。石油はな
くならない。」これはかつてのサウジアラビアのヤマニ石油相の言葉
である。
石油生産量がピークに達し、取りつくしそうだから新エネルギーに
取って代わられたのではない。木材、石炭、石油、原子力、太陽光
発電、地熱発電、バイオマスエネルギー、風力発電・・・・。いず
れも既存の資源が底をついて次に移るのではない。効率が悪くなれ
ば使われなくなり、次の効率の良いものにとってかわられるのであ
る。
日本の経済力がもし終焉するのであれば、それは少子高齢化で人口
が減少するからではない。経済効率が悪くなり他との競争力をなく
し、日本モデルが海外で通用しなくなるからである。効率を悪くし
ている本質を見る必要がある。昨今の空き家の問題も、日本は少子
高齢化で人が減り家を使う人がいなくなるから家が悪くなるのでは
ない。効率が悪い家を誰も使わなくなり、放置され空き家になるの
である。
1990年のバブル崩壊以降効率の悪いセクターを放置し、効率の良い
セクターを新しく生みだす努力を怠ってきた。この効率の悪いセク
ターが今言われている岩盤規制となっている。この問題の本質を見
ずして少子高齢化現象を逆回転させようとしている。少子高齢化を
もしダーウィンの進化論としてみるなら、後退論ではない。効率の
悪い部門をそのままにして人口を増やしても、無駄な経済市場を肥
大化するだけである。地球の持続性に負荷をかけ持続不可能な消費
を拡大するだけである。
成長を持続不可能な経済市場拡大だと言って、何もリスクとろうと
せず、残された日本の外貨準備高にしがみついて何もしようとしな
いセクターこそ最も不効率な部門である。彼らこそが岩盤規制の守
護者でもある。成長を大量生産、大量消費による生産性の向上でし
か考えないと、肥大化して無駄が生じてしまう。市場の肥大を伴わ
ない効率化を考えなくてはならない。日本の少子高齢化はこれに向
かわなくてはならない。
*「市場の罠」
2008年のサブプライム住宅ローン破たんに端を発するリーマンシ
ョックは、金融工学と呼ばれる金融学術のイノベーションによって
生まれた。例えば或る大きな規模の資産の運用を考えてみる。全体
で100億円の資産を平均利回り5%として、5億円の利益を目標に運
用しようとする。
さて今、この100億円を20億円づつ5グループに分ける。第1グル
ープAの利益は20億円で配当を1%で2千万円とする。第2グルー
プBは配当2%で4千万円。第3グループCは20億円で配当5%で
1億円、第4グループDは配当7%で1億4千万円とする。そして残
りの運用利益を第5グループEに配当すると、第5グループ配当利
回りは10%となる。第5グループは残り全部であるから、もし5億
円以上に大きく運用利益を上げると、配当はさらに大きくなる。1%、
2%、5%、7%、そして10%以上、に配当の差を設ける。
一方、この資産運用が失敗して目標の5億円が得られない場合その
減った分を第5グループから順に減らし、次に第4グループ、第3
グループ・・・となる。第1グループは最もリスクの及ばない安全
な資産となる。これがリスクの重みである。実際の運用益が3億円
しかないとすると、第5グループは配当が0になり紙くずとなる。
この仕組みファイナンスは、普通の投資案件から最もリスクの少な
い安全な第1グループA金融商品、つまりなんでもない普通の100
億円の投資から、リスクの非常に少ない極上のA金融商品という市
場価値の高い玉を作り出したのである。まさに錬金術であった。
しかし錬金術には裏がある。この極上のリスクの少ない安全な金融
商品を作るには、副産物としてリスクの非常に高いEのメザニン(ジ
ャンクボンド)と呼ばれる金融商品を生みだす。後にこの金融商品
は毒と呼ばれる。
アメリカで住宅ブームに乗り大量のサブプライム住宅ローンを証券
化し、リスクの高い投機商品Eグループを大量に市場に送り込んだ
のがリーマン・ブラザーズであった。グローバル市場はこのリスク
の少ない極上の商品と、利回りの高いリスクの商品に群がった。た
だ市場もバカではない。ただし、このリスクの高い商品に何もせず
に投機したのではない。保険をかけて投資をしたのである。
この保険がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれる
金融デリバティブ商品である。しかしこの博打の様なリスクのある
金融商品の“胴元”共々すべてが破たんしてしまった。この保険の
胴元が巨大金融グループAIGであった。アメリカは国策としてリー
マンブラザーズをつぶし、AIGを救済した。これがリーマンショッ
クであった。
後になり、手柄顔の識者がこぞって、Eグループの高利回り商品を
作り続けたリーマン・ブラザーをズポイズンビジネス(毒を作る仕
事)と称し、Aグループの金融商品を錬金術の幻想にすぎないと言
い、一斉に被害者を装った。しかし現実に金融危機はヨーロッパに
波及し、経済格差を生みいたるところで国が転覆し経済難民を生み
だしている。
ところ変わって、日本のある農家である。
この農家はキュウリを生産している。1年に10000本生産するとし
よう。これにかかるコストは15万円とする。利益を乗せて22万円
で売りたい。ところがキュウリには曲がり・傷が無い品質の高いグ
レードからキズ物、商品価値が無い物、廃棄される物までA、B、C、
D、Eと2000本づつ5つのグレードに分けられる。
都心の高級デパートで売れるブランド市場価値があるのはAグレー
トだけである。60円(小売100円)×2000本=120,000円、次に地
元スーパーで販売するBとCグレート30円と20円で平均25円×
4000本=100,000円。A,B,Cで220,000円売り上げる。自宅でDグ
ループの一部を使い、残りは路上の無人店舗で売却。Eは廃棄する。
キュウリ生産量の半分近くを粗悪なレッテルをはり市場では評価さ
れない。
高級デパートで売れるブランドキュウリを作ることが高収入を得ら
れる、技術の高い近代的な農家ビジネスとして評価される。この農
家は金融工学を高等大学院で学んだわけではない。それでも市場で
商売をしている。そして誰もキュウリの生産農家をポインズンビジ
ネスとは言わず、キュウリを錬金術生産物とは言わない。しかし極
上の商品を生みだす一方で市場で評価されない商品を作り続ける。
これが市場原理だ。
市場では全体の生産物の中で、ほんの一部の美人だけに群がる。真
実の美人ではなく、美人とみんなが思うであろう人気の美人に競っ
て群がる。これがケインズの「市場の美人投票」である。市場が過
熱すればするほど、一部の超美人が登場しそれ以外はすべて敗者と
なり切り捨てられる。
この市場原理は、全体のキュウリ生産量のうちほんの2割にしか価
値を見いだすことができない。超優良企業はこの2割の商品にブラ
ンド付加価値を付けて、この2割の商品の価値をどんどん高める。
その儲けで市場全体の儲けを牽引しようとする。実務界も学会もブ
ランド価値を高めるビジネスモデルの開発に熱中する。それ以下の
商品は捨てられ、ただひたすらトップの2割の足手まといにならな
いように願うばかりだ。市場ではこの超高級キュウリに群がる消費
者が市場の代表者となる。
キュウリ市場も、リーマン・ブラザーズも「市場の罠」にはまりこ
んでしまったのだ。後になり、リーマンショックと同様キュウリの
消費者が「農家がこんな格差を生みだす輩とは知らなかった。商品
説明書にそんなことが書いてなかったから知るすべもない。自分は
被害者である。」と一斉に連呼する事になろう。市場の罠は経済格差
を拡大し続け経済難民を生み続ける。経済難民は政治イデオロギー
難民化し争いと発展する。難民が世界中にあふれだした。
同様に日本経済の市場の頂点に君臨する東京の価値だけが評価され
て、東京に益々投資して競争力を高め、日本全体を牽引するすべし
かない。それ以下の地方の価値の評価ができない。これも市場の罠
に陥ってしまった状態だ。「しかし東京で日本を牽引する以外どんな
方法が有るんだ。あるなら言ってくれ。」と慟哭されても、今の地方
では全く反論できない。
更に市場に新しい問題が発生してきた。日本ではキュウリを作る農
家に若い人が少なくなってきた。高齢化で腰の曲がった老人ばかり
がキュウリの生産に従事している。そしてその生産農家が減り始め
てきた。やがてきゅうりの生産量がピークアウトする時が来るかも
しれない。レストラン、食卓にのるキュウリが激減するかもしれな
い。石油がなくなると危機をあおるように。
何か新しい食材で補完しなくてはならない。「そうだ海外旅行で見か
けた食材ズッキーニがある。関税の無い自由貿易が始まれば、新し
い商品例えばズッキーニがキュウリに取って代わってしまうかもし
れない。少子高齢化のキュウリ農家はもうおしまいだ。これまで蓄
えを大事にして、新しい生産性の高い技術革新等余分のリスクはと
らずに引きこもろう。きゅうり農家は静かに消え去っていこう。」石
油のピークアウトと同じ発想だ。
日本は人口が減りつつあるから国力が衰退するのではない。効率を
上げる成長をしなくなったから衰退していくのである。
ほんの一部のグレード、セクターにしか価値を見いだせられない「市
場の罠」に陥ると、そのセクターの市場を価値を上げるビジネスモ
デルの開発にのみ関心が集まり、それ以下の第二、第三セクターの
商品価値を上げる努力がなおざりになってしまう。
商品の価値を上げる技術革新をしなければ、そのような技術革新を
評価する事も市場は行わなくなる。何もせずひたすら第一のセクタ
ーの儲けの再配分にすがるだけである。第一セクターの足を引っ張
らないよう逆らわずにいることが利益となる。市場の罠にはまると
ナッシュの均衡状態に陥るわけだ。
市場の罠により格差が広がり、超美人とそうでない物の格差が広が
り、超美人以外を放置するのではなく皆が美人になろうとする効率
の良い市場システムが求められる。超だけを評価するのではなく、
普通に良いものを作ると評価が上がると市場システムを作る必要が
ある。
日本の成功の象徴であった高度経済成長は、第一セクターの成長で
はなく、第二、第三セクターの成長がもたらしたものである。今年
初め大ブレークしたピケの新資本論は資本の配分不均衡を問題にし
たものであった。日本の高度経済成長は配分の成功がもたらしたも
のではない。しかし、資本の配分を自分に有利なるように支配する
のが資本主義のダイナミズムの姿である。資本主義がヘゲモニーを
持つ市場原理に適正な配分を期待することはできない。
市場で行われているビジネスの成果をエクイティーの価値で評価し
ようとするビジネスが革新的進化を続けている。ブランディングビ
ジネスもその一つだ。企業の資本が成長することは資本家、正社員
にはメリットあるが、非正規雇用にはボーナスも出ない。今の資本
主義では格差は広がるばかりである。
*日本の空き家問題
誰も価値を上げる努力をしない住宅は、市場価値をなくし当然空き
家になる。少子高齢化で空き家になるのではない。価値を生み続け
る都市はその価値に人が群がり、人口の減少は生じない。価値を生
まない都市は少子高齢化問題が無くても人が去り衰退して消え去る。
財政破たんしたアメリカの大都市デトロイトは少子高齢化問題で衰
退したのではない。多様な都市流入があったがそれでも都市
は成長を止め破たんした。生産性の悪いセクターが増大し、それは
都市としての効率性、成長性そして競争力をなくしたからである。
例え移民などで人口を増やしても、彼らが生産性の高い価値がある
新しい住宅を求めれば、価値のない住宅は空き家になり続ける。「移
民は日本人が住まなくなった価値の低い住宅に住めばいい。」と言う
傲慢な考えこそが、日本人の価値を損なう発想である。結果的に空
き家は減らない。移民受け入れ問題と日本の経済力の衰退問題は別
物である。デトロイトがいい先例である。
現在ヨーロッパ諸国では、向こう数十年の間に1千万人単位で人口
が増加する予測がなされている。その要因が移民とその子供たちと
医療による寿命の増加である。ドイツだけではない。イギリスでの
ここ数年年間30万人前後の移民を受け入れている。住宅不足が慢性
的な社会問題化している。これは住宅市場の価値の効率性が実効性
ある市場でのことである。
当然、移民と言うリスクを受け入れて得られる次世代の人口ボーナ
ス景気も予想されるわけだ。このままでは日本はこのボーナスを得
ることができないだろう。しかし移民問題と日本の住宅市場の非効
率の問題とは関係ない。むしろ効率が悪いまま市場に移民を受け入
れると、市場の非効率問題の先送りにしかならない。
一言で岩盤規制、岩盤既得権と言うにはあまりにも非効率な市場を
放置し過ぎている。時代に合わない借地借家法をいつまでも放置す
る司法、品質を向上しなくても成り立つ建築業界、不動産の流動化
をなくしてしまう連帯保証人制度にしがみつく金融界、そして目先
の短期的な利益に走る不動産業界である。
売れないセールスマンは売れない理由ばかり探す。売れるセールス
マンは売れる情報を探す。新成長戦略の批判ばかりをするのか?新
成長戦略を探すのか?どちらにいるべきなのか。
ダーウィンの進化論は日本人の消滅を意味しているのか?日本人の
少子高齢者の進歩を意味しているのだろうか?前者を否定するなら
古い社会を打ち破り新しい成長を求めて進化する必要がある。もう
一度言う「石炭が枯渇したから石油がとってかわったのではない。
石油の生産性が高かったからである。」
今年も一年間ご利用していただきましてありがとうございました。
来年も皆様のご多幸を祈念して今年も筆をおくことにします。
以上
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