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主宰:川津商事株式会社
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2019年日本不動産学会秋季学術大会名古屋報告

〈2019年12月10日〉

 12月7-8日不動産研究の最先端が報告される権威ある学会が名 古屋で開催されたことは誠に栄誉なことである。盛会に終了し、開 催に尽力された椙山女学園大学の前川先生に感謝申し上げたい。全 体を通して、いつもながらの筆者の非常にバイアスのある興味ある ポイントを3点ご報告したい。

まず最初にご紹介するのが、不動産鑑定書関連の先端技術である。 今年から鑑定評価書にテキスト文章がもりこまれることになった。 物理データだけでなく、地域予測の変動予測、市場の特性、試算価 格の調整。価格形成要因の変動状況などを文章で、より明確に説明 する箇所が増えた。

この文章からトピックの言葉(変数)を抽出して、そこから普遍的 なトレンド、変動を解析分析しようとするモデルである。従来であ ればこの変数に物理的データが入るが、「駅近」とか「高騰」とい った言葉が変数になる。まだ多くの改善の余地があるが、今年から 変わった評価書に対応して、すぐに新しいモデルが登場することの スピード感が素晴らしい。

研究者の植杉(摂南大学)教授は、初期の不動産金融工学会で筆者 と顔見知りの研究者である。言葉から何かを解析する手法は、いわ ゆるAIがすべて考える時代になるだろうという幻想がある。しか しそれは現時点では幻想でしかない。

精度を確認しようにも企業秘密故AIのアルゴリズムが開示される ことはなく、結果がどのようなものになるかも予想できない。ただ AIと言う言葉とイメージだけのシンギュラリティの出現が幻想を 大きくしている。

名古屋でも、今年の不動産投資家意識調査のとりまとめが商工会議 所で始まっている。この調査でも、利回りなどの物理的なデータの 収集だけでなく、パブリックコメントが非常に重要な重みを出し始 めている。これらのテキスト文章の蓄積が今後、何らかのモデル式 で有効に解析される手法である。

二番目にとりあげたいのが、今回の学会で住宅の空き家問題に象徴 される住宅ストックに関連する多くの研究発表を俯瞰すると、日本 の住宅は新築から20年くらいまで緩やかの価値の減衰がみられる が、20年から30年の間で劇的に価値の減衰が現れる。その後30 年以降は緩やかにただひたすら残存価格に向かって価値が減衰し続 ける。

日本の住宅の価値は新築から法定耐用年数まで定率で価値減衰する のではなく、築20年ごろを境に激減し、最終的に実効的有効耐用 年数が25年前後となってしまうわけだ。この価値減衰がなぜ非線 形的な形態をとるかと言うポイントと、この急激な価値減衰を防ぐ 手段がないというポイントが、空き家問題など様々な問題の起点に なっていると考える。

そもそもリフォームを行っても、その新たな価値付加が東京ではあ る程度評価されるが、大阪名古屋など地方では有効に評価されない という報告もあった。これは評価システムの問題である。もちろん 評価スキルはその背景にあるニーズのボリュームによって左右され るからだ。

そして20年前後に遭遇する価値大激減は、本来必要とされる大規 模修繕再投資がなされないことに起因する。それは大規模改修投資 をファイナンスの仕組みがないことにも起因する。修繕を妨げる普 通借家法・・等々が起因する。

そして今回の学会で最も強烈に感じたポイントが、リニア関連のシ ンポジウムである。主催の前川先生が名古屋で開催するから旬のテ ーマを取り上げたいとご苦労されて人選したパネルである。

結果的に名古屋サイドのゲストスピーカーが多くなり、東京大学の 浅見先生だけがアウトサイド的な存在になっていた。全国に向けて 名古屋の研究者が何を語るかと言う点では面白かった。

名古屋サイドのスピーカーの多くが「スーパーメガリージョン」 (東京大阪間の拡大経済都市圏)の出現を当然のごとく連呼してお られた。しかしその内容は、ストロー効果に代表される東京、大 阪、名古屋の三都市の交流を通じて、お互いが良い処取りをできれ ばと言う内容であった。あまりにも内生的な議論である。

当ニュースレターでも何度も取り上げるが、従来のグローバル経済 がNY、ロンドン、パリ、東京と言った先進大都市がけん引してき た。その原動力がこれら都市の都市間競争であった。しかしこれか らのグローバル社会は合従連合して形成するメガ都市群、いわゆる スーパーメガリージョンがけん引しる時代になる。

このメガリージョン、メガシティーが、権威ある国連から報告され たのが既に10年前の話である。当時のメガリージョンは中国深? (シンセン)を中心とした1億2千万人エリア、そして2番目が東 京-大阪の6千万人、つづいてサンパウロとなっていた。

この報告書の本質的な部分は、既存の権威の塊の都市と言う概念が もう古く、市場をけん引するのはメガリージョンだという考えであ る。それから10年たってようやく日本では第二次国土形成計画に 名前が登場したわけだ。日本もまったくスピード感が無い。

スーパーメガリージョンは市場の成長であり、それはグローバル市 場に対する外生的な戦略が目的である。しかし間違うと東京、名古 屋と言った古い都市概念のセクターが抵抗勢力になる概念でもあ る。吸収されるのが嫌やだとか、ミニ東京になりたくないという発 想がそれである。

終了後の懇親会の席で、浅見先生にもお聞きしましたが、地方では 想像以上に「スーパーメガリージョン」と言う言葉が独り歩きして いるという感想であった。東京からすると東京の市場が拡大するの がスーパーメガリージョンに過ぎないというイメージだ。

世界を見てみると、今新交通システムのインフラ整備に対する需要 が高い。新幹線システムの輸出である。これは言い換えれば、既存 の都市と言う概念を壊し、グローバル世界に打って出るための新し い器を再構築したいという新しい需要である。世界がメガリージョ ン間競争に突入しようとしているわけだ。

メガリージョンに言及すると、面白い特徴は、現在あるスーパーメ ガリージョンと呼ばれるエリアは、OECDの旧先進諸国エリアでは 日本を除いて生まれていない。理由は、ロンドン、パリ、NY等既 得権を独占する都市という概念が強すぎて、抵抗勢力となっている からだ。

中国のような共産圏では深?に次ぐメガシティーがあちらこちらに 登場している。それに次ぐのがアジアの新興諸国である。東京も単 なる東京ビジョンの拡大に過ぎないと考えていると、単なる抵抗勢 力になってしまう。

注記:メガリージョンとして自ら名乗りを上げている都市はいくつ もある。本稿ではメガリージョンを巨大都市のメガシティーとは区 別して論じている。

現在、外から見る日本のメガリージョン(東京-大阪)は規模から して、中国深?に次ぐ2位に位置している。更に今リニアによる域 内の生産性向上が期待される。こういった日本の優位性と、東京の 意識の違いを理解して、本来の外生的な競争優位を確保することが 必要になる。名古屋が東京、大阪直結して内需が喚起するだけの内 生的な理由だけで終わらせてはならない。

特に、名古屋から大阪間の伸延まで、名古屋には10年の優位があ るという考えは間違っている。東京-大阪間が完成して初めてメガ リージョンの本質的な効果が上がるインフラである。名古屋が中心 になって大阪までの伸延推進を後押しするべきだ。

名古屋でもっと戦略的なリニア=スーパーメガリージョンに関する 問題意識を高める必要があると感じた学会であった。

以上

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