ニュースレター
主筆:川津昌作
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3000億円海外からの不動産投資
〈2020年1月30日〉
「国内最大の不動産投資 米ファンドが3000億円」1月29日日経
が朝刊一面で取り上げた記事である。この件だけ取り上げるなら、
低金利、過剰クレジット供給によるハイレバレッジ投資であるが、
その背景には、つき並みではあるが、日本の不動産投資がグローバ
ル市場に組み込まれたことがある。今回はそれが意味するところを
議論したい。
資産の証券化ビジネスであるファンドが日本で始まったのが2000
年以降である。1998年資産の証券化のスキームであるSPC法の法
整備がされ、同時に資産の運用スキームであるREIT法関連の法整
備がなされた。以来様々なタイプのファンドのビジネスモデルが日
本でも開花した。
ファンドがある前は、市中銀行が個別の不動産資産に対して融資を
することによって日本の不動産市場が支えられてきた。市中銀行の
融資は、不動産資産に対する融資ではなく、事業主に訴求する融資
であり、永遠に融資事業が続く前提のスキームで、不動産資産が事
業主、融資権限者を変えて渡あることはなく、出口は破たんでしか
なかった。
そもそも人の投資の能力の賞味期限はせいぜい10年-20年であ
る。不動産資産は、欧米では100年以上の資産寿命がある。破たん
でしか出口がない投資市場では、そもそも不動産投資はあり得な
い。
ファンドビジネスは資産の流動化のビジネスモデルである。行き詰
って初めて移転する資産運用のスキームではなく、戦略的に資産を
流動化できることが最大のメリットである。その結果3000億円の
ような強大な資産プールが流動化できるわけだ。
かくの如く、2000年以降の資産の流動化ビジネスの進化は、不動
産市場に非常に大きな恩恵・成長をもたらした。このファンド市場
の成長に大きく貢献したのが、アベノミクスによる日銀のREIT株
の購入である。日銀のお墨付きを得て、グローバル市場で大きな信
認を得た。
現在日本の上場リート市場19兆円、リートを含む私募ファンドが
30兆円を超える規模にまで成長している。そして日本の不動産市
場におけるファンドビジネスの最大の貢献は、地価に市場性をもた
らしたことである。
前回号の「中東チュートリアル」で、石油市場の歴史を特記した。
概略を回顧すると、石油の需要は当初1800年代末灯油でしかなか
った。その市場規模はまだ小さかった。第一次世界大戦を経て運送
用エネルギーとなり世界的な需要拡大が生じ、中東ペルシャエリア
での油田開発が始まる。
中東で石油油田が開発されてからしばらく、7大メジャーと呼ばれ
るアングロサクソン資本による石油ビジネスの独占が続く。メジャ
ーにより石油価格が支配されてきた。その後1950年以降中東でア
ラブ社会が台頭、確立してきたことにより、石油利権がアラブ社会
に移る。アラブOPEC社会による石油流通市場の支配、石油価格の
支配時代となる。
この1900年ごろの石油灯油需要時代からメジャー資本、その後の
アラブ資本による石油価格支配までの石油価格の変動が、1バレ
ル、1ドルから40ドルまでの逓増的な変動であった。
しかし2000年以降、2007年に130ドル超、リーマンショックで40
ドルまで降下、2013年にアメリカのシェールガス革命を受け、産
油国による生産調整などが影響して120ドル超、ところが2016年
には30ドルまで降下と、激しい価格変動をしだした。
2000年以降、石油価格の決定力が、メジャー資本・アラブ資本か
らグローバル市場の価格決定に移行するようになると、石油価格
が、グローバル市場の様々なリスクを受けて大きく変動するように
なる。
それまで中東の地勢リスクが石油価格を決定していたのが、逆にグ
ローバル市場のリスクが中東の地勢リスク(新たな中東戦争、アラ
ブ社会と西側社会とのフリクション)を引き起こすようになった。
地価に話を戻そう。日本の地価は不動産鑑定に制度による官製価格
であると言われた時代が続いた。市場価格がこの官製価格に支配さ
れてきた。将来、「2000年に始まったファンドビジネスが2020年
にグローバル市場価格に支配されたポイントであった。」と回顧さ
れることになろう。
つまり日本の内生ビジネスであり、日本の地勢リスクによって決定
されてきた日本の地価が、グローバル市場のリスクによって支配さ
れ、グローバルリスクにより地価が大きく変動し、それを受けて新
たに日本の地勢リスクが生じる時代の始まりである。
ではグローバル市場の日本の地価に影響をもたらすであろうリスク
とは何か?もちろんグローバル市場の資金動向である資本市場の動
向がまず挙げられる。それ以上に、今後世界では、地球環境に負荷
をかける投資から資金が一斉に引き揚げることが予想される。
地球環境に負荷をかけ続けているというイメージが強い日本ビジネ
スからも、資本が逃避することがあり得るかもしれない。これは現
在の金融危機が生じると発展途上国から資本が逃避して、国が破た
んする状況と同じことがイメージされる。
先般新聞等で、水害ハザードパップによる水害リスクを宅建業者が
買主に告知する義務を課す宅建業法の改正方針が報道された。これ
は水害リスクを地価に反映させる政策であるが、有識者の間では水
害ハザードマップの信ぴょう性によるヒューマンエラーリスクに新
たに地価がさらされるという懸念がされている。
日本は治水技術の歴史が日本経済の歴史と言っても過言ではない。
現況の水害ハザードマップは土地の高低差だけである。人工的な都
市内部の雨水処理能力、河川の治水能力は管理者の技術能力であ
る。こういった世界的な技術水準リスクにも曝されることになる。
ちなみにNYのマンハッタン島では、海面上昇リスクに対し島全周
域のかさ上げを行おうとしている。しかし壁を張り巡らすのではな
い。都市再開発により、防潮壁の代わりになる都市構造物を全域に
整備巡らそうとしている(NHKBSで放送)。
その結果であるNYの地価と、地球温暖化でどうしようもないとし
て治水に予算を振り向けない国の地価の評価が、グローバル市場で
異なってくることは当たり前のことである。これもリスクである。
話は飛ぶが、日本鑑定制度も変わる必要があるだろう。日本の税収
の課税ベースが地価に重きを置いてきている。これを維持するため
には地価を評価する鑑定制度が必要である。安定した税収を確保す
る意味においては、その目的の鑑定制度は必然的に必要である。
しかしビジネス市場における市場価格をこの課税ベースの評価とシ
ンクロさせる必要はないし、シンクロさせること自体出来ないはず
だ。筆者の偏見的考えは、徴税の課税評価を「市場価格」とするこ
とで正当化させていることに意味がないと考える。
安定した税収は国体の運営に必要である。誰からどれだけ徴税する
かは国の政策である。それを正当化させる徴税評価があってしかる
べきである。しかし税収の安定化のための鑑定地価は、適正な市場
価格と切り離して考えるべきである。これは、今後地価が大きく変
動するリスクから、税収の安定さヘッジするためにも必要になろ
う。
以上
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