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主筆:川津昌作
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常態変化

〈2020年12月1日〉

新聞報道によると、ついにイスラエルとアラブの雄サウジアラビア が接触した。非常に大きな歴史的なエポックメイキングだ。20世 紀最大の地勢リスクであった中東戦争の終焉か?アラブVSイスラ エルと言う中東の常態に変化をもたらしたものは何か?脱石油経済 の台頭?データ・サイバー国家の台頭?東アジアの台頭?ポピュリ ズムの台頭か?資本主義の・・・・?

近年の理論的な思考、科学的な理論とは、実証データを何らかのモ デル式で解析した結果が、いかにリアルな現実の説明にコミットメ ントしているかがその有用性になる。当然モデル式によって出た答 えには、様々なデータの平均値、均衡解であり事実との間の誤差が ある。

この誤差を最小に抑えて“最もな”答え、誤差の少ない答えを求め る手法が統計学であり、その手法を高める様々技術が最小二乗法な どの解析技術であり、それを巨大なデータを使って処理するアルゴ リズムがAIである。

しかしこれらはいずれも理論解であり、事実との間には必ず誤差が ある。たとえAIがどれだけ優れてもこの誤差を最小にする技術に 過ぎない。この誤差が「誤謬で」ある。“理論的”と言えば、必ず この誤謬があることを意味する。

そしてリアルな「現実」とは、今起きている事実であり架空のもの ではない。事実とは今起きている事実と、過去に起きた事実でしか ない。いくら事実を正確に説明できるモデルを開発して、将来と言 うこれから起きること探ろうとしても、それは予測でしかない。

消費者の購買行動であり、様々な経済成長予測であり、公衆衛生の 感染リスクであり、様々なリスクが発生する可能性である。しかし これらはいずれも予測でしかない。

今市場のニーズはより正確な予測をしたい、他人より優れた自分だ けが知りうる予測情報が欲しいと考えだしている。新たな市場ニー ズ、社会ニーズである。これが予測することへのニーズではなく、 将来のことを知りたい“予知”に対するニーズである。

予測の精度を上げ、より予知に近くなるように様々な進化が模索さ れている。量子コンピューターの開発であったり、ビックデーター を集めるプラットフォームの構築競争であったりするわけだ。

今、資本主義が混乱して、グローバル市場をけん引する力となりえ ていない。この低迷する資本主義が、これまでの物欲による市場の 成長モデルであった。物欲による満足度がある域に達した時、それ 以上の成長を欲しなくなった。これが低成長の本質だ。

予知に対する欲求はこの物欲に代わり、新たな資本主義にダイナミ ズムを与える核心的要素になるのではないだろうと考える。予知を 可能とするビジネスモデルを開発した者が市場を支配し、予知を規 制監督することができる者が社会の新たなガバナンスリーダーにな るだろう。これが筆者の考えだ。

ちなみにネットでは「辞書(大辞泉)によると「予知」とは「何が 起こるかを前もって知ること」、「予測」とは「ことの成り行きや結

果を前もって推し量ること」となっていて、「予測」のほうが不確 実性が大きいような印象を受けます。」と出てくる。

予測はたんなる行為であるが、予知は人間の欲求の対象となりうる 物事だ。今現在では、まだまだ予知と予測の違いが非常に曖昧であ る。これが明確に区別されるとき、社会が一変し新常態が生まれる のではなかろうか?

先般、日本金融学会中部部会にて、学習院大学の村瀬英彰先生によ る、非常に興味ある論文「新古典派均衡マクロ経済モデルによる分 析」が報告された。今社会で起きている激変がなぜ起きているのか を、均衡モデルを使って解析した研究論文の報告である。

今経済市場では、それまでの優等生がいきなり劣等生になりそれが 復活できない。インフレの常態からデフレの常態への変化。貨幣数 量説の喪失。財政規模を拡大しても金利が上がらない。マネーサプ ライの制御困難。等々の常態変化が生じている。

これらの常態変化は、その背景となるレジームのチェンジによって 説明できるということを金融の政策的内生性と真正内生性を使って 説明した、解析モデル研究である。

この研究報告を聞いていて考えるところは、1990年代末から様々 な外生的な要因により経済市場のレジームが変わってしまった。こ の外生的な要因とは東日本大震災とは別に、グローバル化による国 内の内生と、外来との齟齬なのかなと考えてしまう。

世界で同じようなことが起き、アメリカ国内でのこのレジームチェ ンジに対する反動が、トランプの出現だったのであろう。今アメリ カの有識者は、トランプは死なないと言っている。トランプ主義は 今後も、アメリカにおいてグローバル化の反動として復活するそう だ。

もうひとつ特筆すべきが、この村瀬先生の報告に対する岡山大学の 釣雅雄先生のコメントである。名目GDPとマネーストック(M2)を 使って過去のレジームを説明された。それまでのレジームが終わる とき、いきなり次のレジームが始まるのではなく、その間に何らか のノイズがある。

新常態への変化とレジームの関係について議論してみました。常態 は「常」に変化することを意味するのだろう。コロナ禍だけが新常 態への転換点ではないし、新常態がゴールではない。

追記:村瀬英彰先生は以前名古屋市立大学におられ、日銀副総裁に 就任された岩田規久男氏の後任で学習院大学に移られた方で、今後 日本のマクロ経済の分野をけん引する先生である。東海高校出身、 マクロ経済専門で不動産経済にも造詣が深い。名古屋経済がもっと 利用すべき先生である。

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