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主筆:川津昌作
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「金利ある世界」VS「金利のない社会」

〈2023年8月10日〉

防衛費予算の捻出のために、国庫のNTT株売却を政治の独断でなさ れようとしている。今後もしNTT株を入札にかけたらいくらになる だろうか?かつてのバブルを彷彿させるかもしれない。

「金利ある社会」と言う言葉が経済紙で見かけるようになってき た。日本では、金利のある社会の象徴であった1990年代のバブル 経済から、その破綻後の低金利、更にリーマンショックを経て、異 次元の金融緩和のアベノミクスと、約30年にわたり3段階ロケッ トで金利がなくなった。

まず今までのデフレの社会を思い出そう。バブル当時、敷金20か 月などと言う高額の担保を差し入れて借りていたテナントが多くあ った。20か月の敷金が仮に2000万円としよう。

バブル当時の2000万円と言う金額は、店舗内装すら賄うことはで きなかった。しかしバブルから20年を経ると、デフレになり物価 が下がり、新たな賃料、敷金だけでなく店舗改装コストも下がり、 このテナントはその2000万円を元に、20年経た老朽化したテナン トではなく、新しい隣接するテナントに移ってしまった。

一方バブル当時、このテナントから2000万円を担保として取り、 テナントを貸していた大家は、2000万円を銀行に預けていた。定 期金利もどんどん下がり、やがてほとんどなくなり、結果的に実質 価値が下がってしまった。

2000万円を店舗と言うリアル資産に転嫁していた事業者は、物価 が下がった恩恵にあずかり、店舗と言う資産を敷金と言う債権に転 換していた家主は債権価値が減り損することになる。これが金利の ない世界だ。

では金利がある世界はどうだ。例えば1989年後のバブルのピー ク。市場金利が8%に届こうとしていた。長期プライムが7%超の 時代である。当時の不動産賃貸物件を建設した利回りが、インカム ゲイン率で8%前後であった。

もちろん1987年ごろまでに建築していれば、建築コストも安く 10%も期待できることがあった。しかしバブルが進むと同時に物価 が高くなり、リアル資産への投資利回りが減っていった。

その反対に銀行で運用しておけば簡単に7%、8%という金利が引 き出せた。当時譲渡性定期預金、現物先物預金などと呼ばれたもの が地方銀行でも普通に売ってもらえた。長期銀行が発行するワリチ ョ―、リッチョーと呼ばれる高利回り金融商品も開発され、財テク と言う言葉が社会であふれていた。

「同じ8%で運用できるなら、リスクのある不動産投資と銀行預金 とどちらが良いか?と言う議論が普通になされた。リアル資産への 運用より、金融資産への運用が魅力を持っていた時代である。これ が金利のある世界だ。

金利のある世界では、常にリアル資産がオルタナティブ投資とな り、金融資産の利回りと比較運用される。当時の金利のある世界と 今との違いは、リスク量の多さである。今では一般の人ではなかな か手が出せないリスク量となっている。

「金利ある世界」を説明した経済紙では、アメリカの中小金融機関 の債券運用の失敗などに起因する破綻をその帰結としている。つま り弱者がリスクにさらされる時代だと説いている。

日本でも同じことがいえよう。中小地銀が、金利のない世界にどっ ぷりつかってきた今、資金仲介のビジネスで利益が得られず、特に 法人金融仲介部門を一気に削減し、新たな投資、金融仲介にとらわ れない新しいビジネスでの、預かり預金資金の運用を志向してい る。

これから始まる金利のある社会では、昔ながらの金融資産の方がリ スクが少なくなる。リスクを多くとろうとするこのような金融機関 の破綻もありうるわけだ。

かつてのバブル時代は、やはり旺盛な需要に供給がついていけず供 給ショックが起きていた。ビルの建築コストが急上昇していた。今 現在も同じ供給不足の物価高騰が起きている。

ニューヨークマンハッタン、セントラルパーク近くに2017年100 階建てのマンションが完成した。このマンションの売り出し価格が 基準階で当時1700万ドル。今のドル円換算すると24億円だ。

購入者は、4戸まとめて購入と言った、ユニコーンの創業者などの 超富豪たちだ。現在アメリカの住宅ローンがプライムの固定金利で 6%超となっている。一般の人には縁のない話である。

「一般の人には縁のない話」これもバブルいわゆる金利がある世界 のキーワードである。バブルでは価格が競りあがる。競りあがれば 上がるほど魅力が生じ、金持ちが群がる。一般の人と格差が生じる 世界だ。

やがて東京も一般の人には縁のない世界になろう。今、都心でもマ ンションを持っている人たちも、老朽化による再開発でみな東京か ら立ち退きされる。立ち退き代がいくら上がっても新しい価格には 追いつかない。

昔金利のある時代に、地上げがなされて古い住民が皆去ったよう に。当時の地上げも、それなりの高額な立ち退き代をもらえるから 退去したのである。しかし彼らの多くは都心には残れなかった。

当時の市場金利が8%になろうという時代に、実際リスクポジショ ンを取り、アクティブにビジネスを行っていた世代は、今みな60 半ば以上だ。企業の役員クラスでかろうじて残っているくらいだ。

彼ら、もとい、我々にとってはデジャブの世界だ。しかし今市場に いる多くのビジネスマンにとっては、みな新鮮なサプライズになろ う。彼らに学習効果は通じない。

東証株価の5万円時代になるかもしれない。さてどんな金利のある 社会が登場するか?もう忘れかけたキーワードがもう一つある。 「バブル期末期最後の建築物だ。建てといてよかったな。」。

名古屋市内で今や、観光の名所となっている栄の「栄オアシス 21」。バブル経済末期に計画されて、当時やめるにやめることがで きなかった「行政の遺物、鉄の塊、バブルの申し子」と言われた。 今では観光の名所である。栄光の建築物である。現実に、今の名古 屋では作れないだろうね。

                         以上

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