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主筆:川津昌作
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マンション管理「見える化」を(斎藤広子)

〈2023年10月10日〉

前回に引き続いて、日経経済教室の住宅問題を論じた3人の論者の 内、2番目の斎藤広子氏(横浜市立大学)のマンション管理問題を 取り上げる。記事内容を引用しながら議論を進める。

前回の弊社の結論は、空き家問題の根本原因は住宅が市場原理で新 陳代謝が進まないことにある。市場性が高くても空き家は生まれ る。しかし市場の新陳代謝が健全に起きれば、空き家で放置される までに建て直され、改修され市場価値が保たれ、市場価値があるも のまで空き家になることはなくなる。と考える。

さて、今回の斎藤氏は、不動産関連の学会で活躍の著名な識者であ り、特に横浜に拠点を置き、都市の街づくりに精通している。特に 近年のマンションの管理問題では非常に多くの知見を持ち、この問 題のオピニオンリーダである。以前よりいろいろ勉強させていただ いている先生だ。

まず氏の論点を紹介しよう。箇条書きで 第一にマンション管理放棄問題。これは老朽化していないにも拘ら ず住民が不在で管理が放置され、近隣の迷惑施設になっている問題 だ。

第二が、管理不全の問題。管理組合がない。管理費がない。修繕費 がない。管理規約がない。と言ったマンションである。入り口の開 発業者の問題でもある。

第三、管理不全予備軍。修繕費が不足する状態。適切な整備がなさ れず結果的に建物整備が不適格になってしまっている。

第四に、築50年以上たち、建て替えが必要にも拘らず、建て替え がスムーズに進まないマンション。

斎藤氏の指摘によると、東京では現在の市場メカニズムによって、 価値があるマンションの建て替えはすでにだいぶ進んでいる。これ からまだ残っているのは、何かしらの問題があり建て替えの支障が あるマンションが急増している。

その理由の一つとして、建て替え費用が、従来1戸400万円であっ たのが、現在では2000万円にもなると指摘している。

まず以上の斎藤氏の論点をまとめると、最終的に建て直すことも、 壊すことも、修繕することもできない、いわゆるルーインサイト (朽ち果てた施設)になる段階が上記の一から四の序列段階と言っ てもいいだろう。いずれにしても今の制度政策下では、現在残って いる予備群の多くがルーインサイトになってしまうことを指摘して いる。

この解決策として、管理の「見える化」を斎藤氏は提言している。 見える化とは要は第三者の監視が行えるようにするという意味だ。 前回の論点同様、質の高い論点だと評価できる。これに対し私ども の考えを以下に述べる。

前回の論点もそうであるが、現状を混乱させずに現実路線で政策を 行うという現場の実務者らしい論点ではある。しかしそれではこれ から空き家およびマンションのルーインサイトが、大量に発生する ことに対する根本的な解決となっていない。

前回から申し上げているように、市場原理でかたづける手法とし て、投資の出口戦略を意識させる必要がある。投資とは期間の設定 で収益を上げるビジネスモデルである。プロの投資には必ず出口が ある。出口戦略と言いイグジットストラテジーがないリスクポジシ ョンは投資ではない。

住宅投資も同じである。アメリカの住宅市場では必ず出口が求めら れる。その結果が再投資をして価値を上げて売るという出口が当た り前となる。この再投資で価値を上げるという行為が、そもそも老 朽化、放置、空き家と言うようなルーインサイトをなくすわけだ。

住宅流動性を高めるシステムとして、住宅購入の保証人、融資の保 証人制度などを撤廃し、逆に価値が下がれば破綻するリスクをむし ろ負う市場にする。

そうすれば、老朽化、空き家になる前に価値が下がりかけた時点 で、何か手を打とうとする。或いはそもそも価値が下がりそうなマ ンションを購入しない。健全な新陳代謝が機能し、優良な中古住宅 市場が整備されれば、住宅購入の入り口が新築市場だけなく、良質 な中古流通市場でも買えるということになる。

現在増え続けている空き家を、古民家利用の対象にもならないルー インサイトと、再生が可能な資産との区別を明確にすべきである。 それは資産を再生するビジネスモデル、ファイナンスモデルがあっ て初めて成り立つ。

解りやすく説明すれば、大災害時の人命救助のトリアージと同じで ある。ルーインサイトは解体、市場的価値がある資産は再生、の区 別がつく市場をデザインしなくてはならない。

あまりにも強権すぎる。それでは実務のマンション供給が止まって しまうと言われても、一時的に止めることを前提に、新築マンショ ンには出口の解体方法を金銭面、制度面で明確にさせることが望ま れる。

それによって、新しい供給が抑制されれば、又古いマンションの再 生が促進される事にもなるからだ。同時に出口戦略の市場での定着 が期待できるからだ。

次回は最終稿の吉田二郎氏の論題を論評する。

                         以上

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