ニュースレター
主筆:川津昌作
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サッポロHD「都心不動産の売却検討」
〈2024年2月20日〉
「日本はコストカット経済に陥り、デフレ経済から脱却できなくな
ってしまった。」その挙句が、ダイハツなどに見られる一連のごま
かし不祥事だ。GDP4位陥落のずいぶん前から一人当たりの所得、
つまり労働生産性が低下していたが、ほとんど無視されてきた。
処方箋は一つだ。かつてソニー、トヨタを生み出したように次なる
Apple、Google、マイクロソフト等のような先進企業を
日本から生み出しことだ。コストカットで内部留保を増やし、自社
株買いをせざるを得なくなる経営を排除することだ。
表題は2月14日日経新聞朝刊に掲載された記事である。当ニュー
スレターでは昨年以来、上場企業が保有する不動産などの資産の売
却が加速している話題を、何度か取り上げてきた。
日本の上場企業の多くが株価資産倍率(PBR)1を切っており、そ
れを改善するためと言うのが大義名分である。自社株買いなどを進
めているがなかなか改善せず、企業は保有するコア事業に関連しな
い資産の売却は当然アリの話であった。
さて表題の件は、サッポロビールが、東京都心部に保有する不動産
資産恵比寿ガーデンプレスを、売却するという話題である。恵比寿
ガーデンプレスは。私、筆者が若き研究者を目指したころ、ブラン
ドプロパティマネージメントを研究すべく、最初に調査に入った物
件であった。
筆者の最初の実務書である「不動産投資マネージメントの戦略」で
調査内容を子細に取り上げている。シャネルが2000年に世界中の
トップモデルを東京に集めて、東京都内を回遊させ最終的に恵比寿
ガーデンプレスに集合させた、歴史に残るメガファッションショー
が行われ、世界中に発信された。
何度も繰り返しになるが、不動産の有識者の間では、非常に成功し
た不動産開発の実例であった。しかし当時の親会社であるサッポロ
ビールが、コアのビール事業で業績を下げていた。社長の記者会見
で不動産開発に伴う有利子負債が、本業を圧迫したと言い切り、ス
ケープゴートにされた案件である。
以後、コアの事業の業績浮沈のことあるごとに、売却の話題が絶え
ない案件であった。25年四半世紀が過ぎて又今回もビールに集中
するとして、売却が検討されているという毎度おなじみの話題であ
る。
しかし一方で、今回のPBR1倍ショックに関連し、資産を有効活用
できないまま保有し続けている企業が資産を放出することは、不動
産業界としては千載一遇のチャンスでもある。
以前から不動産資産のことを「負動産」と茶化す輩がいる。不動産
には負も正もない。あるのは不動産資産を保有し、有効利用できな
い人であり企業だ。不動産を有効に使いこなすことができない負の
人たちだ。
イギリスは、非近代的な貴族制度が現在もなお国内経済の主要なプ
レーヤーたり得ている。表に名前が出ないトラストなどを含めて、
イギリス全土の多くの土地が、貴族の実質的な所有になっている。
彼らは地主として、土地を負動産と茶化し手放すことはせず、あく
まで土地から利益を上げる方法を工夫した。それがイギリスの起業
家精神になっている。一説には産業革命もこういった土壌が有効に
働いたと言う説もあるくらいだ。
かたや日本の貴族(華族)は、華族制度設立後間もなく没落し、消
滅した。日本の華族の前身は大名である。大名は知行と言う名の不
動産資産を保有して明治維新を迎えた。
しかし彼らの多くは、不動産資産を使い事業を行うことなく、安く
手放してしまい、金融資産に変えてしまった。華族の資産運用に特
化した金融機関が第十五銀行であった。
その後明治期から昭和初期に至る幾たびかの金融恐慌を経て、彼ら
の保有する金融資産価値は紙切れになってしまったのである。敗戦
後のGHQによる日本の社会制度構築にあたり、華族制度の存続は認
められず、没落消滅してしまったのである。
金融資産の運用を他人任せにして、自分で事業も何もせず、当然天
皇家を支える貴族制度としての貢献もしなかった彼らが、存続でき
ないのは自業自得であるといわれ、内部崩壊したのである。
現存している当時の華族の子孫の多くは、近衛などの摂家を除い
て、殆どが大名貴族ではなく、三井、三菱、野村と言った明治期の
成り上がり商業人男爵である。彼らはむしろ、三菱の丸の内のよう
に土地を払い下げしてもらい、不動産事業を起こした人たちだ。
不動産を利用できた者が生き残ったのである。不動産を負動産にし
てしまう輩は国を亡ぼす。
そこで不動産の利用を担う優秀な不動産ビジネスプレーヤーが求め
られる。彼らの育成登場が、まさに負動産にしてしまう輩から不動
産を救い、日本の経済を再興させるキーとなる。
不動産を企業の総務課から切り離し、戦略的経営資源とし、市中金
融機関のデットファイナンスから切り離し、リスクが取れるエクイ
ティファンド、ファンドファイナンスを整備する。その一連の過程
で、新たなる上質なアセットマネージャー、プロパティーマネージ
ャーを育成する。
まさに夢のような日本経済再興のシナリオではないか。
以上
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