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主筆:川津昌作
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新時代の労働法制と不動産市場構造改革

〈2024年3月20日〉

今の日本経済は金利上昇何処までが限度でしょうか?皆さんぜひご 意見をください。私ども住宅金利だけで考えるなら長期金利2- 3%までは耐える必要があると考えますが、債券価値に影響する短 期金利上昇を考えると1%台が限度かな。

過日、日経新聞経済教室において「新時代の労働法制と言うテーマ で、大内伸哉氏(神戸大)、水町勇一郎氏(東京大)の二人の論者 が解説している。大変勉強になる。お邪魔虫ながら不動産ビジネス の立場から少々議論を展開してみたい。

不動産市場でも、コロナ禍そしてアフターコロナという100年に 一度の稀有な経験をしてきた。日本ではコロナ禍時、一部企業でテ レワークが実施されたが、現在は、ほぼコロナ前の状況である都心 の職場に回帰している。

しかし、アメリカでは、都市によって50%ほどしか都心の職場に オフィスワーカーが回帰していないところがあり、多くの都市、都 心でテレワークの定着化が進んでいる。

例えばNYのマンハッタンのオフィス街でも、依然として20- 30%がオフィスに回帰しておらず、結果としてオフィスが閉鎖さ れ、NYマンハッタンの象徴である摩天楼に、オフィスの空室が急 増して、それが商業不動産証券の破綻を招き、一部で金融機関の破 綻にまで及んでいる。

この日本と、アメリカのアフターコロナの状況の違いは、在宅の家 の規模、構造の違いが大きく影響している。日本のオフィスワーカ ーの都心回帰は、けしてコロナ禍をうまく乗り切ったわけではない。

日本では家が手狭で小さすぎ、テレワークの生産性が全く上がらな かったわけだ。アメリカの大きな居住スペースでは、経験してみれ ば、都心部に毎朝通勤するより在宅の方が、生産性が上がる仕事が 多くあったわけだ。

さてこの不動産市場の状況を踏まえて、上記二人の論者の論点を改 めて俯瞰してみる。詳しい引用はできないが、現行の日本の労働法 は、旧態依然としておりその改革が喫緊の課題となっていることが 主張されている。

そもそも、近代以前中世の労働制は、身分の階級制のしきたりがそ のまま労働制を形成していた。フランス革命、ギルドの崩壊を通じ て、初めて労働の契約概念が成立する。その後産業革命を経て、劣 悪な労働環境から労働者を守る目的で近代の労働法が成立し、現代 に至っている。

これらの経緯から、労働法の対象となる市場デザインは、工場労働 であり、かつ会社組織、工場組織単位のいわゆるマスであった。つ まり個人ではなくマス単位で、保護を目的とした制度であり、日本 の現効下の労働法もこれに倣っているわけだ。

オイルショック、バブル破綻を経てオフショアか起きた中で、現実 的でない工場概念が続き、現在ではその機能を低下しつつある労働 組合が、唯一の労働者の代表となっている。また労働の流動化を促 進する労働者の仲介システムが、古い人身売買的な性悪説の下で、 否定されている。

その結果、今の日本では、労働生産性の低下、実質賃金の硬直化、 働き甲斐が実感しにくい社会、格差社会から抜け出せない息苦しさ が蔓延する社会に陥ってしまっている。これらが二人の論者に共通 する問題点である。

これに対して「労働法も、従来の保護を目的とするだけでなく、生 産性向上、消費拡大のニーズに合致し、かつ働き方改革で正規・非 正規、ジョブ型・終身雇用、副業・正業、パート・定時、転勤・非 転勤、通勤・テレワーク等々の多様な形態の最適な組み合わせの中 で実効性ある法制度でなくてはならない。」と言うのが論者たちの 結論である。

このように見てくると、労働法制の改革は、それ以前の労働市場の 市場デザインから見直す必要がある事は明らかである。更に冒頭の 不動産市場の観点から見ると、それは単なる労働市場のデザインで はなく、社会生活のデザインの見なおし、社会資本投資の見直しを も要求していることは明らかである。

東京都心のように、乗車率200%の電車に1時間もかけて都心に 通勤する仕事の生産性が、高いはずがない。NYマンハッタンの6 番街では、朝8時、大きなおなかの妊婦が仕事場に通う姿が見ら れる。東京で乗車率200%の電車に乗って妊婦が仕事に通えるだ ろうか?

結果的に現在日本では、子供も産めない少子化を止められない、 生産性の低い労働市場の均衡状態に陥ってしまっている。

働き改革でリスキングが求められるのであれば、大学などリスキン グの機関にアクセスできる場所・時間が必要になる。リスキングの スキルは、会社(マス)に所属するのではなく、個人に帰属し、転 職してもスキル持ち運び(モビリティー)が可能な労働契約でなく てはならない。

そのためには大学、専門学校が高卒を前提とするのではなく、社会 人を前提としなければならないし、能力開発を評価できる市場デザ インが求められる。

そして問題の居住環境である。労働の生産性の最適化のためには、 本来様々な形態のテレワークが存在しなくてはならない。しかし日 本では、都心の職場回帰こそが、日本経済の対コロナに対する完全 勝利のようなどや顔が当たり前のごとくみられる。

テレワークが可能となる十分な住居スペース、家族構成、家族構成 員の役割分担、そして通信環境の見なおしが求められる。会社の重 要な得意先の個人情報にアクセスし、仕事に集中する一方で、家族 の子供がそのスペースに入り込むことは、YouTubeとしては「い いね」を獲得できるかもしれないが、仕事の生産性は上がらない。

コロナ禍で実施されたテレワークの最も失敗例が、ZOOM会議で ある。受け手側のネット環境の脆弱性、発信側のハードソフト面の 脆弱性からくる不便性は、特に企業人にとって声に出せない不愉快 さであった。これらは環境の問題ではなく、ほぼ人災にひとしい。

持ち家制度推進の柱となっている住宅ローン優遇金利などが、もっ とテレワークを促進する制度になる必要もある。マンションの大規 模修繕以前に、ネット環境の改善ができる根本的な仕組みが必要に なる。

現在、日本の住宅都市は、あくまでも睡眠スペースだけのいわゆる 「ベットタウン」型である。寝に帰るだけの住宅整備が都市構造の 最適化となっている。これに変わってテレワークに最適な都市構造 「テレタウン」が必要になる。

最適なテレタウンは都心からどのような位置に立地して、どの様な 機能が必要になるのか?どのような社会資本の投資が求められるの か?都市の作り替えが求められているのかもしえない。

そして、現況の都心のオフィススペースに対する過剰な投資を削減 して、NYで起きているような商業不動産投資の破綻をソフトラン ディングさせる、金融市場構造の改革も必要になる。それは従来の 旧態依然した東京都心一極集中の弊害の修正でもある。

小手先の労働市場の改革ではなく、少子化社会でありながら、世界 で競争できる生産性の高い都市空間の実現を目指さなくてはならな い。

                         以上

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