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主筆:川津昌作
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2045年までの東京圏の住宅資産94兆円滅失

〈2024年5月15日〉

5月13日、日経新聞電子版に掲載された記事「空き家900万戸、 再生との戦い空き家の「0円取引」広がる」について論評する。正 直ついにこのような記事が出てしまったか、と言う感想である。同 じような記事内容をかつて英字新聞で見たのである。

14年前の2010年に英字新聞ガーディアンの一面を飾り、世界中 を駆け巡った衝撃的なニュースであった。 “Detroit homes sell for $1 amid mortgage and car industry crisis”(デトロイトで住宅ローンと自動車産 業の破綻で住宅が1ドルで売られている)。

米都市デトロイトとは、1907年にヘンリーフォードが格安な庶民 向け自動車T型フォードを開発し、世界中にモータリゼーション 革命を引き起こし、1950年代には全米5位の人口規模185万人 までに成長したグローバル都市であった。

現在人口が半分以下の60万人にまで減少したが、今でもフォー ド、GMの本社がある世界の自動車産業の栄枯盛衰を物語る自動車 産業の聖地である。

1960年代にはモータウンサウンズというデトロイト発祥の音楽レ ーベルが人気を博し、シュープリームズ、ダイアナロスなどの世界 的な人気スターが生まれ、まさにアメリカバブルの中心にあり、絶 頂期であった。

その後、日本などの自動車産業の趨勢におされて、デトロイトの自 動車産業が斜陽化する。そして2010年この記事が掲載された。そ してほどなくして、世界を代表する都市デトロイトの都市の財政破 綻が世界中にニュースとして駆け巡ったのである。

当時、全米で最も貧困率が高く、全米で最も移民率が高く、全米で 最も犯罪件数率が高い都市と言われ、大都市の破綻が現実に起きた 実例であった。都市の財政破綻の直接的な原因は、工場が隆盛を誇 っていた時に、世界中から集めた移民労働者にたいする社会コスト の増大であった。

その後自動車産業の斜陽化とともに、そこに集まった移民労働者の 社会福祉コストがかさみ、財政を圧迫した。デトロイトと言う大都 市が破綻したのである。

その後の都市の衰退はひどいものであった。当時「ルーインサイ ト」と呼ばれ、1900年代初期の自動車工業最盛期に建てられた当 時のアールデコ様式の著名な建物が、朽ち果てた状態で放置された エリアと化した。

当時「ルーインサイト巡り」と言う観光ビジネスがあったくらい だ。この観光ビジネスは単純な昔の遺跡(ルーイン)巡りではな く、いわば我々不動産ビジネスの玉である不動産建物資産の猟奇 殺人の現場ともいうべき、恐ろしい光景を見に行く観光ツアーであっ た。

興味がある方は“Detroit ruin site”で、Googleで画像を 検索してみてください。注)これらの画像は基本的に最近のAI画 像が出回る前の実写画像です。

この事例は、あくまでデトロイトと言う都市の破綻と、その後の社 会資本の成れの果てである。それを今、日本と比較するのはいかが なものか、と思われますか?そのデトロイト破綻の兆候は「住宅の 価格が1ドルで売り出されて、それでもだれも買わない。」という 現象から始まっているのである。

今回、同様の記事が日経電子版に登場したのである。住宅は、その 地域の重要な社会資本である。この社会資本が市場価値をなくす状 態がなにを意味するのかを理解してほしい。しかも日本全国で起き ようとしているのである。

もちろん、デトロイトは財政破綻をして、底辺を見たわけだが、現 実に、都市が消滅したわけではない。現在でもグローバル企業であ る自動車のフォードと、GMが本社を置き、デルタ航空の最重要拠 点である。これら企業の役員たち含め富裕層が今も多く住む60万 人規模の大都市である。

しかし富裕層たちは、アッパーの山の手に、城壁のような門で囲ま れたガードマンが警護する特別なエリアに住む。低所得者は治安の 悪いエリアに居住するという、まさにハリウッド映画のハイアンド ローに出てくるような世界だ。

当時読んだ文献では、「デトロイトのダウンタウンを女性が歩くと きにペッパースプレーを常に持ち歩く」とあった。ペッパースプレ ーは人に襲われた時に護身用に用いて、相手の顔をめがけてペッパ ーを吹きかけるものだ。

しかし当時のデトロイトでは、これを人に使うのではなく、人影の 少なくなった街を徘徊する野生のコヨーテ等に襲われた時に使うと あった。デトロイトは五大湖を挟んですぐカナダであり、野生の白 熊、コヨーテなどが人影の無くなった都市を徘徊しているという状 況を現したものだ。

要は最盛期180万人から60万人にまで減少し都市の激変を意味 しているのである。

話を日本に戻そう。最近ある論文が発表された。不動産業界では有 名な中川雅之(日大)教授らの研究論文である。非常に衝撃的な内 容であるが、なぜかニュースにはなっていない。表題はその内容で ある。

論文「住宅資産デフレがコンパクトシティー推進の新たな障害とな る可能性」住宅土地経済132号(2024)中川雅之他である。この 論文は、人口減少により資産価格デフレが起きる状況を解析し、そ の結果、起きうる資産価格の下落が、今、人口減少対策の中心的な 政策であるコンパクトシティー政策の障害になるという内容だ。

この論文では、東京大都市圏全体で、2045年までに約94兆円の 住宅資産が失われると言う事をモデル推定している。今後20年で 東京だけで94兆円の住宅資産が滅失するわけだ。

明らかにデトロイトとは原因、主因、過程は違うが、結果的に都市 のルーインサイト状態が生まれるリスクが高いわけだ。日本の場合 は、カナダからの白熊は来てないが、山からクマがすでに街を闊歩 している。どこが違うというのか?

日本の場合、ルーインサイトになるのはタワマンなのか、50階を 超える高層商業ビルなのか?地下街商業施設なのか?ぜひ一度 “Detroit ruin site”を、Googleで画像検索してみてくだ さい。日本の将来にならないことを願うばかりだ。

                       以上

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