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主筆:川津昌作
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論壇:都市政策―成長と衰退―

〈2024年7月10日〉

今、日本中の衰退しつつある地方都市が、今回罹災した能登の弱小 市町村の復興の進み具合に注目している。弱小自治体の中には、罹 災する前からすでに社会資本が劣化してしまっているのが現実だ。

日本規模で罹災した東日本大震災、中堅都市の都市部で罹災した熊 本地震、そしてともすれば消滅市町村が多く含まれる今回の能登半 島エリアで罹災した地震と続いた。

復興すると言う事は、様々な社会資本の再整備がなされるわけだ が、もちろん弱小地方自治体ではそんな財源がなく、かつ国もどこ まで本気か?もし自分のところが次に罹災した場合、復興かなわず そのまま消滅する可能性もあるわけだ。戦々恐々として注目してい るわけだ。

表題の件、不動産都市政策の当代を代表する二人が日経経済教室に 登場している。日本大学の中川雅之氏と東京大学の浅見泰司氏であ る。お二人とも不動産都市政策の学際領域のトップになられる方々 である。

お二人の主張を俯瞰しながら、現代の不動産都市政策の論壇を議論 したい。詳細は日経新聞朝刊6月28日と7月2日を確認してい ただきたい。

まずは、浅見氏の「都市計画、人口減少を前提に」から紹介した い。浅見先生らしい、難しいことを難しく見せるのではなく、非常 に簡単な切り口から諭すように説明されている。

1968年に制定された都市計画法は、人口増加・成長経済を都市構 造に調和させるための政策であった。当時の市場ニーズを氏は「人 口増加社会における市街地のコンパクト化」と表現している。

今、人口減少化の下でソリューションとされているのも、コンパク ト化と言う言葉で説明される政策である。しかし、氏の見識では 「コンパクト化」は人口増・成長経済の器としての都市政策である という考え方になる。

既存の都市計画は、人口増加による拡大を一定のエリア(市街化区 域)に抑え込むための政策である。それがコンパクト化であり、そ のために容積率建蔽率が上限としてゾーニングに合わせて設定され ている。

その結果、市街化区域においては建築施設が規制の上限にまで誘導 されることになる。例えば容積率600%と設定されていれば、そ の区域においては600%を目標に、その範囲で最大の施設の開発 が誘導されたことになる。

つまり上限と言う考え方が、成長を支える政策として実効性を持っ ていたことになるわけだ。しかし現代は人口縮小、縮小経済の都市 計画を策定しなくてはならない。この縮小政策と成長誘導政策がそ ぐわない点を指摘している。

更に、浅見氏が懸念する状況は、人口減少は、都合よく都市部の周 辺部から徐々に減少するのではない。既存市街化区域内で、ランダ ムに空き家が増え空き地になり、それらがつながり縮小エリアがあ ちらこちらで拡大する。

このような状況下で、周辺部から徐々に市街化区域の境界を狭めて も、区域外に優良なエリアが取り残され、逆に衰退エリアが区域内 に点在的に発生してしまう。

更に、懸念されるのが既存不適格建築物の登場である。例えば容積 率600%のエリアで建てられた施設が、市街化縮小で仮に容積率 400%に削られたとすると、600%の施設は次回400%に建て直さ なくてはならない不適格建築物になる。

既存不適格建築物は、次回建て直しに際に400%のような縮小し た規模で建て直すことが誘導されるが、現実には600%から 400%に縮小されるのであれば、建て直しは進まず放置され、現状 の600%を維持したがる。つまり老朽化の放置である。

市場原理で誘導する建て直し、つまり現行の再開発は、再開発され ることによって、増床などのメリットなどがあって初めて進むこと になる。

今問題になっている、老朽化したマンションの建て直しは、建て直 した結果、新たな増床が見込まれ、その増床を販売して建て直しの 財源化することが、老朽化対策再開発の手法である。

それが、市街化区域の縮小で、容積率の縮小が現実に行われると、 建て直しはストップし、放置されることが懸念されるわけだ。つま り単一の市街化縮小計画では、人口減少・縮小経済対策には機能し ないどころか、現行の再開発にも影響が出る懸念を氏は強調してい る。

このような状況から、浅見氏は現状の市街化区域内に将来の非市街 化調整区域、非市街化区域の新たな政策的計画エリアの設定が必要 と主張している。

つまり600%の容積率区域内に、何年後に400%に調整する区域 を新たに設けるという考え方である。新しい斬新な考え方である。 縮小に向けて何らかのインセンティブを市場に与えることが重要に なるわけだ。

次に中川氏の論調を見てみたい。中川氏の主張は、東京都心部の集 積の抑制する考えに対する反論である。氏は最近この論調を様々な ところで展開している。

東京都心は、最も多様性が高く、多様性のマッチングの機会が多い ところである。マッチングの結果新しい化学反応が生まれる。これ こそが東京のダイナミズムである。

そのマッチングしたペアが、東京中心部周辺のそれぞれ適した住環 境に住むという選択肢を行使している。つまり多様性の最も高い都 心でマッチングを可能促進し周辺都市部でシェアリング経済を行っ ているのが東京である。

この東京へのアフォーダビリティー(アクセス可能性)を抑制する べきでないという主張である。そして東京はスーパースター都市と なっているわけだ。

日本だけでなく、世界に冠たるリードする都市のあるべき姿と考え る。このスーパースター都市を抑制するのではなくどのように生か すか?が都市政策になろう。しばらく前にやはり経済教室の登場し た吉田二郎氏も東京を世界でも最も生産性の高い都市として評価し ている。

二人の論調は、成長させる都市と、縮小する都市の対照的で非常に 有意義な議論である。

 以上

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