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主筆:川津昌作
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失われた30年を改めて考える。

〈2024年9月25日〉

まず、最近の年金問題を見ると、言うまでもなく、年金を拠出する いわゆる支える世代の人が減り、年金給付を受ける世代の人が多く なり、収支が合わなくなってきたことが最大の問題である。

これに対し、厚生年金を拠出する分母を広げる政策が近年なされて きた。厚生年金参加を義務付ける企業の規模を引き下げ、またパー トタイマーからギグワーカーまで、その傘下の対象を広げようとし ている。それは、経営形態が理容店とほとんど同じような零細不動 産宅建業者にまで及びつつある。

60歳過ぎても、少ないまでも自分で所得を得ようとして人生設計 をしている者には、現行制度では所得制限があり、年金給付を受け ることができないことが明らかにも拘らず、厚生年金に入らなけれ ばならないストレスは計り知れない。・・・と言った混乱がある。

私見はともかく、年金論壇で論じられている内容を俯瞰すると、要 は厚生年金の拠出のベースを広げるための新しい制度はどうしたら いいかと言う議論が主なものである。

例えば、1号被保険者(上記自営業者)、3号被保険者(所得の無 い配偶者)を2号被保険者(厚生・共済年金加入者)に転換するた めの制度の見直し議論もその一つである。

現状、3号保険者である扶養家族などの特典を得るための所得制限 などが、就業参加への妨げになっている。それを改善させて、もっ と多く就業参加を促そうというものである。少子化による労働力不 足の改善政策でもある。

更に、年金給付において例えば65歳でも一定以上の所得があると 受給ができない制限がある。この制限が、本来の希望の就業意欲を 削いでしまい、60歳以上退職後の就業参加を妨げている。

65歳以上年金給費を受けるためには、所得があってならないとい う考えは、65歳以上で所得を得ること自体がペナルティーである と言う事を意味している。

これでは、高齢者が元気になり長寿命化しているにもかかわらず、 65歳以上の就業参加意欲はなくなる。

つまり、いかに女性の就業参加を促すかと言う女性の社会参画問 題。どのように従来の生産労働年齢と言われていた15歳から65 歳までの年齢を引き上げ、高齢者の就業参加を上げるか?と言う制 度が議論になっている。

今更ながら当たり前の議論であるが、百家争鳴一向に話が進まな い。

女性の社会参画問題については別の場で議論するにしても、最低限 まず政治家に女性枠は必要だろう。社会からマタハラを一掃して育 児制度の拡大も必要になるだろう。大学入学をはじめ様々なセクタ ーで女性枠が必要になるのではないだろうか?

65歳以上の高齢者の参加については、もちろん年金受給制限など の制度障害を見直すことが重要である。考え方としては、企業が6 5歳以上の就業者を受け入れるにあたり、当然給与水準の低下は致 しがたない。

現状では、企業が60歳定年を延長する場合、それまでの給与水準 の4分の一ぐらいまで下がるケースがある。この水準が適正かど うかは問題があろうが、一定水準下げるケースは当然出てくる。こ の下がる水準に対する補填と言う意味で公的年金の給付を当てる考 えはどうだろうか?

極端な話、現状の退職後の給与所得が増えれば増えるほど、就業意 欲が高ければ高いほど補助も大きくなる制度である。給付も増えれ ば、就業参加意欲はますます高まるはずだ。最終的に課税によりそ の分が就業不可者に分配される。

如何に65歳以上の就業参加を上げるかと言う問題は、年金問題だ けでなく、少子高齢化社会で必要な社会ニーズでもある。そのため には企業体質も変わる必要がある。

大企業の終身雇用、60歳定年制度があらゆる点で現状にそぐわな いことは事実である。最近の65歳定年をした人たちを見ている と、明らかに燃え尽き症候群がある。私どもの卑近な比較をしては 申し訳ないが、定年がなく一生働く身からすると悠長なことであ る。

一方、労働市場の改革の議論を見てみると、労働人口の減少に直面 し、更に日本経済全体の生産性の低下を受けて、より生産性の高い 分野に、どうやってより上質な労働力を再配置するか?が喫緊の問 題となっている。

従来の労働力配分を、ガラガラポン、最近の言葉で言えばリセマラ をしなければならないわけだ。AI革命では明らかに低熟練労働力 の失職が起きることも明らかである。

労働市場の改革の議論も百家争鳴状態である。その中でも重要な議 論がジョブ型雇用への移行である。メンバーシップ型から仕事、資 格、キャリアを明確にして雇用する手法である。

要は、今までの労働市場が硬直しすぎていて、ほとんど労働力の移 動が起きない。これに対して移動しやすい雇用制度を設けようとい うものである。終身雇用をなくし、金銭による途中解雇もかんがえ られている。

私ども不動産業者が考える労働力の流動性問題は、雇用形態の制度 改革だけが解決ではない。労働者が移動するためには、持ち家であ る不動産、キャリア、資格、能力のアイデンティティを持って移動 する必要がある。

つまり個人資産のポータビリゼーションが必要になるわけだ。リス キングの結果の能力、資格が既存の企業に所有されれば、移動はで きない。まず能力、キャリアのアイデンティティ化がなされ、それ を持って移動できなければ、本当の意味での労働力の流動性は起き ない。

同時に持ち家不動産などの、税務上の買い替え優遇制度がなけれ ば、距離的な移動もできない。こういった労働資産力のポータビリ ゼーションが制度的に担保されなくて流動性は実現できない。

労働力市場、年金問題の論壇を見ていて改めて気が付くのが、失わ れた「10年、20年、30年」問題である。新聞報道(日経)デー タをお借りすると、男性の60歳から64歳の就業参加率が、1968 年81%であったのが、その後下がり始め、2002年64%まで下が り、その後上がりはじめ2018年には81%まで回復した。

つまり2002年前後10年、約30年間にわたり男性の就業参加率 が落ち込んだことになる。女性はこの間横ばいで顕著な落ち込みは ない。

あえて、下品な言葉を使えば、1990年から2020年の間の失われ た30年の間、60歳から64歳に象徴される男性は、社会における 就労をさぼったことになる。

異論があり、お叱りを受けるかもしれないが、この失われた30年 は「ゆとり」概念を多用し、投資努力を怠り、それまでの経済成長 にあぐらをかき、技術革新を怠り様々な分野で生産性を落とし、 様々な社会インフラのメンテナンス更新をさぼってきた。

そのリーダーがこの間の60歳以上の燃え尽き症候群ではなかった ではなかろうか?

今、日本は、円通貨の価値を失い、外貨準備高を取り崩し、交通イ ンフラなどの社会インフラが老朽化し、メンテナンスすらできない 廃墟と化しつつある。

都市部においても再開発が進んでいるのは東京の都心だけである。 大阪、名古屋ですら市街地の老朽化が著しい。様々な分野で先進諸 国の中でも下位にランクされ、日本はやがて消え去る国とまで揶揄 されてしまっている。

以前、ある野党のリーダーが、リニアの開発をやめましょうと言っ ていたのを聞いたことがある。もうこれ以上早くする必要ないでし ょう。新幹線で十分でしょうと公言していた。

30年と言えば、一世代である。なぜこの失われた30年間に社会 のブラックホールが起きてしまったのか?これを一度検証する必要 がある。

大リーグで活躍している大谷世代が、その能力を開花し、世界に羽 ばたいている。失敗の健勝を行ったうえで、彼らの能力を全開させ る雇用制度、社会システムを再構築する必要があると考える。

 以上

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