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主筆:川津昌作
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ヘンリー・クラビス(KKR)―私の履歴書―

〈2024年11月1日〉

国政選挙は自民党の歴史的敗退となった。くしくも開票明けの日 に、日経新聞の記事で、今回取り上げるヘンリー・クラビスが「失 敗したらさっさと認め、何を学んだのかまで周囲に話してしまえ」 と言っている。クラビスは日本の「失敗を認めない風土」のリスク を指摘している。

日経新聞の「私の履歴書」にヘンリー・クラビスが登場している。 KKRは言うまでもなく世界でも有数のプライベート・エクイティ (PE)ファンドである。昔の感覚の私どもからすると、海外のPE の創業者が日経に登場すること自体が驚きであるが、生きたファイ ナンスの教科書として是非一読をお勧めする内容だ。

PEファンドとは、日本に入ってきた当時、今から30年前は、日 本のマスコミがハゲタカファンドと呼んでいた。やっていること は、市場で価値を失ったノンプロフィットあるいは破綻した資産を 購入して再生するファンドである。

1990年代のバブル破綻当時、日本の不良債権化した資産をアメリ カの再生ファンドが購入して再生して。日本のマスコミは、再生し て巨額の利益を実現する彼らを、こぞってハゲタカファンドと呼称 して揶揄することしかできなかった。

しかし残念ながら日本には、彼らより効率よく再生するスキルを持 ったプレーヤーがいなかった。海外の再生ファンドに日本経済の市 場が席巻されてしまった。それを理解できないマスコミが、ハゲタ カファンドと揶揄することしかできなかったのである。

そもそも日本企業においては、ビジネスを失敗して不良資産がある 事を認めること自体、はばかれた時代である。失敗を認められない 文化である。再生するビジネス自体、全く必要ないと言わんばかり に忌嫌われた時代である。

不動産ビジネスではいまだにある。不動産投資には通常の不動産賃 料で運用するコア、価値をなくした資産を再生するバリューアッ ド、タイミングよく市場で資産を流通させるオパチュニスティック の不動産スキルが循環して初めて市場が成立する。

にもかかわらず、高名なエコノミストが不動産ビジネスと言えば賃 料収入が中心のコアの不動産投資だけで、不良資産の再生処理、地 上げなどタイミングで市場を創造するビジネスを忌み嫌う。

コア、バリュー、オパなどのビジネス戦略が無ければ市場は循環し ない。再生が無ければ、一度経済が停滞すると再生が行われず停滞 したままだ。それが失われた10年、20年、30年の本質でもあっ た。そんなリテラシーのないエコノミスト、著名学者がいまだに多 い。

そもそも2000年以前は、企業がどんなアンダーバリューになって も表に出さず、破綻するまで放置する時代だ。民事再生などの仕組 みもなく、会社更生法と言われる、ある意味司法的に経営者を罰す る仕組みしかなかった時代でもある。

これがまだほんの30年前の日本だ。それ以来プライべート・エク イティ(PE)ファンドの評価が低いわけだ。

しかしその一方PEファンドの中でも、このKKRなどは、海外で 大学の基金のマネー、社会福祉年金の各団体からの拠出を受けてき た。つまり非常に社会性の高い資金を集め、公的な社会的ニーズと してPE投資ビジネスを行っていたわけだ。

と言う前置きでKKRとはコールバーグ・クラビス・ロバーツとい う創業者3人の名前を取った、投資運用会社である。もちろん日 本でも最近PEが登場している。東京海上キャピタル、大和証 券キャピタル、三菱UFJキャピタルそして日本産業パートナー ズなどがある。

とあげると、上記に書いたハゲタカファンドと一緒にするなと クレームが出るが、そもそも再生に良いも悪いもない。KKRの クラビス氏が履歴書で強調しているのも、破産会社の再生だ。

再生ファンドのビジネスの典型は、経営に行き詰まり価値をな くしている企業、企業の子会社・別部門、資産、株式を購入し て、再生して上場しなおして、上場益を得るものだ。

例え破綻していなくても、これら再生PEファンドに狙われた 時点で、その企業、資産は市場でアンダーバリューであること を宣告されることと同じことを意味する。経営者が失敗を隠し て何とかなるのではなく、市場が厳しく評価するわけだ。

再生に良いも悪いもない。ましてやかつての村上ファンドのよ うに、敵対的であることを理由に提案を否定しても、狙われた 企業がアセットの最適な運用ができておらず、アンダーバリュ ー状態にある事には変わらない。

現在、カナダの企業が日本のセブンイレブンを買収に入ってい る。これもある意味市場評価から比較して安いと感じたから提 案されているわけだ。

今回の投稿は、海外のファイナンスの最先端のPE戦略の成功者 が、本来日本の経営成功者をほめちぎる日経の履歴書に登場したこ とになる。日本の論壇でPEを評価できる時代になったという覚醒 の感がある。下手な現代ファイナンスの教科書を読むよりわかりや すい。

プライベート・エクイティ、と言っても過去には様々な変遷があっ た。有名な事件が、LTCMロングタームキャピタルマネージメント と言うPEファンドがあった。

ブラック・ショールモデルでノーベル経済学賞を受賞したショール ズ博士などファイナンス学際領域のオールスターと言われた著名な 学者を集め、特別なビジネスモデルで組成したファンドが1000億 以上の損失を出して破綻した例もある。

当時のプライベートファンドの特徴は、再生技術ではなく、ファン ド構造のレバレッジ技術にあった。後日の報道でLTCMは50倍か ら100倍の高いレバレッジ構造を構築していた。

この事件は、そもそもプライベート・エクイティ・ファンドの創生 要因、つまりPEに対する市場ニーズが何であったかが理解できる 案件である。LTCMの設立は1994年である。日本のバブルが破綻 し、とりあえず1番底で景気が少々上向いたときである。

日本の市中金利がバブル経済で8%まで上がったのが2%台まで下 がった時代だ。そして実はこの低金利がアメリカでも2000年代以 降の低金利時代に入り、当時のアラン・グリーンスパーンを悩ませ た。西側諸国が低金利基調になり、先進諸国が成熟期に入り低成長 時代に入ったと言われた時代だ。

西側先進諸国では富を稼ごうとする成長世代、やがて蓄積した富の 利子で生活する引退者世代が明確に分かれていた。イギリスなどが その例であり、とくにイギリスでは資産の半分以上を所有する貴族 社会が地代、利子、配当所得で賄われていた。これら利子所得者が 低金利で困り始めた時だ。

これに対して、リスクが取れる富裕層向けに、高配当のニーズに対 応した投資機関が登場した。これがプライベート・エクイティ・フ ァンドの始まりだ。日本のマスコミが取り上げる再生ファンドは、 たいてい企業の再生になるが、本来のPEファンドは不動産から、 企業迄あらゆる資産、動産、無形固定資産にまで広がっている。

このPEファンドに対するニーズは、今でも生きていると言うよ り、今そしてこれからの方が加速するわけだ。KKRのクラビス氏 が履歴書の中で例として挙げているのが、日本の退職後年金問題で ある。現在、退職後の資産運用に必要な利回りが実現できていな い。

退職後の資産形成が、確定拠出の経営者側から、従業員の運用に責 任が移った。従業員の自己責任で運用しなければならない。そして この問題に対する日本政府の回答が新NISAである。果たして新 NISAは機能しているのか?退職後資産を増やしているのか?ちゃ んと国民を守っている政策なのか?

日本に限らず、このような退職年金の高い運用ニーズの対応できる のが、KKRであるとクラビス氏が紙上で分かりやすく説明してい る。

様々な企業の全体、あるいは一部のLBO(レバレッジバイアウ ト)を行い、再生して市場に再び売り出し大きな利益を得る。日本 の似非エコノミストがぼったくりヘッジファンドを言っていたビジ ネスモデルである。これがKKRの得意とする分野である。

今回の、KKRのクラビス氏の履歴書を読んでいても、過去に、日 本の企業に子会社を売却させることが最も苦労したとある。経営状 態が良くならない子会社を親会社から切り離し、再生すると同時に 親会社のコアビジネスに特化させる。今では当たり前のことである が、これが日本ではなかなか進まなかったビジネスモデルのよう だ。

今年になり、東証が日本の上場企業の低成長経営の放置を改めさせ る改革を断行した。いわばPBR革命である。資産の低収益の改善 を促す上場基準指針である。

これまでの日本の企業は、冒頭の話のように失敗を認めず、社内で 長いこと放置してきた風土がある。外部の金融資本圧力を徹底して 忌み嫌い、低成長経営にもかかわらず無能な経営者を守ってきた。

その結果PBR株価資産倍率が1倍を切る企業が堂々と上場されて きた。日本の上場市場はゾンビ企業の品評会であったわけだ。日本 の企業を再生させる機会は非常にたくさんある。そしてこれらに目 をつけているのがKKRなど海外のPEファンドである。

このような、再生ビジネスの成功報酬を受けることができるKKR への資金提供者は、カリフォルニア教職員年金基金、カナダ・オー ストラリア年金基金、ノルウェー政府年金基金、アブダビ投資庁、 或いはメットライフ、プルデンシャルなどの保険資金である。日本 のマネーは蚊帳の外であった。

これらの報酬が日本に還元されていないのが問題だ。再生ファン ド、PEファンドを認められず、低成長しかできない日本の企業経 営者を守ってきた挙句に、再生の報酬をすべて海外に吸い取られて しまっている。今後の日本の退職資金の運用に期待した。

今の日本の金利政策は、巨額の国債発行により金利の上昇を制限さ れてしまっている。植田新日銀総裁が1%に近づける発言しただけ で株が売られ、大激震であった。結果今後も金利上昇に制約が続く ことになる。

本来人生の退職後、これまでに蓄えた資産の利子、配当、地代など で老後の生計資金を増やそうと計画していた高齢者が、低金利で行 き詰っている。新NISAを信用して投資をした人たちも多くが失敗 してしまっている。その分、年金で補填せざる得ない状況だ。年金 給付増加圧力が増え、年金を拠出する若い世代への負担につながり かねない。

日本のビジネスは、バブル経済破綻時以来ビジネスの救済をし続け てきた。救済は当然評価されるべきであるが、ゾンビ企業の温存が 日本経済の低成長の足かせになっている事も事実である。

国内のビジネス・企業資産の再生を実現し、その儲けが国民に還元 される仕組みができていない。国内ファンドの再生スキルのアッ プ、企業の再生に対する理解、これらファンドの国民が投資できる 仕組みづくりである。

と同時に、再生ビジネス・企業が市場に再チャレンジできるスペー スの創造が必要となる。これこそが既得権益の破壊であり新しい規 制緩和の意義である。

日本の不動産ビジネスにおいて、様々なリノベーションなどの生成 ビジネスが少なからず登場し始めている。しかし本当の意味におい て再生の概念がまだまだ希薄だ。

日本では、例えば持ち家は死ぬまで変わらず一つを持ち続ける。事 業用収益不動産であっても棚卸資産ではなく固定資産である。つま り持ち続ける。

不動産資産を例えば10年以内に売るとする。まだ築浅で市場でも 評価され売れる。しかしその次の20年後転売しようとすると、更 に次の30年後売れるかどうかを考えると買い手が少なくなる。

最後の終活つまり再生が無い市場では、再生前、更にその前にさか のぼり買い手が少なくなる。買い手が少なくなれば当然買い手市場 になり売却価格は下がる。であるならば最初から売ることを考えな い。これが再生が根付いていない市場の現実だ。

今回の日経の履歴書は、PEファンドの日本での生き様であり、日 本のファイナンスの教科書を読むよりわかりやすく面白かった。製 本になればぜひ手元に置いておきたい。

以上

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