主筆:川津昌作
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そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。
情報の大量生産、大量消費時代の消費行動「タイパ」
〈2024年11月25日〉
当ニュースレターの今年一番多く登場したキーワードが「タイパ」
である。改めて言うまでもなく「タイムパーフォーマンス」であ
る。「また若い子の言葉を追っかけて流行に走ってい。」と言う批判
も多くいただく。なかなか浸透しないようだ。
今回は、なぜ今「タイパ」なのかを改めて議論したい。タイパでグ
グルと「Z世代の新しい価値観・・・。」とか「タイパとはZ世代
に流行する・・・。」「Z世代が重視する・・・。」と連なり、Z世
代だけが強調されており、明らかに本質を見失いかねない解釈がま
かり通っている。まさにネット検索の弊害である。
タイパ行動の本質を見失うから、先の兵庫県知事選挙のように「マ
スメディアvsSNS」のような情報対立構造になってしまう。対
立分断思考では何も良い結果が得られない。
「タイパ」は今年の日本商業学会の全国大会でも統一テーマに挙げ
られてきた概念である。地球レベルの環境問題。都市レベルの再開
発。消費者行動のタイパ。であった。
IT革命、情報革命、ネット革命・・・と言う言葉が、当初は流行
り言葉であり社会記号に過ぎなかったのが、現在では明確な社会背
景に裏付けられた概念となっていることは、皆さんも異論がないは
ずだ。
IT革命が社会で認知されだしたのは1990年代半ばだろうか?ア
メリカ、特にシリコンバレーで、2000年前後して非常に大きなI
Tバブル経済がはじけている。当時ITをテーマにした企画が、ビ
ジネスになる期待を集め、巨額のマネーが動いた。しかしその多く
が期待外れでビジネスの多くがはじけ金融危機につながった。
仮に2000年を起点にすると、情報テクノロジーに関する革命が既
に25年四半世紀が過ぎたことになる。1700年代後半イギリスで
起きた産業革命は、弊社の定義では約80年間期間を要した。労働
世代において約3世代である。
今の時代から見ると、200年前のほんの一瞬の出来事であり、突
然産業界が革命的に進化したようなイメージだが、1700年代後
半発明された手動の紡績機が、蒸気動力の発明により自動紡績機に
変わり、織物製品の大量生産が可能となった。この移行期間が約
80年である。
大量の織物製品が市場にあふれ出たことが、生産性の向上を意味
し、それが産業革命と呼ばれる本質である。ただ動力機械が発明さ
れただけではなく、大量の製品が世に送り出され、その消費で社会
が一変した。
産業革命は、上記のように供給面での技術進歩ばかりにその本質を
求めがちだが、実は大量需要、そして大量消費と言う需要面での大
改革が生じ、それによって社会・文明が大きく進化したのが産業革
命の本質にある。
もう何が言いたいかご理解いただけただろう。新しいIT技術が生
まれ、ハイスピードのネット環境が生まれ、GAFAに象徴される
プラットフォームが登場したことがIT革命の本質ではない。これ
は情報の大量生産(記録)という供給面での一面でしかな
い。
そしてIT革命が始まって25年四半世紀以上が経ち、今社会には大
量の情報があふれ、その大量消費が始まっているのである。
もちろん産業革命当初は、粗悪な製品も作られたであろう。それら
が市場から排除される技術も又技術進化であったはずだ。今大量に
作られる情報にも粗悪(フェイク)なものがある。それも含めてど
のように情報を大量消費したらいいか?がまだ始まったばかりである。
この大量の情報のスマートな消費行動の一つの答えが「タイパ」で
ある。Googleで検索しても、なかなかこのような解説は見当らな
い。いつまでたっても「Z世代が・・・。」である。このような解
説理解(消費)の遅延、つまり消費行動の遅延・障害も又消費者の
不満であり、この不満に対するニーズ行動が又「タイパ」につなが
る。
新聞・TVの既存マスメディアの情報だけでなく、SNS等新しい
プラットフォーム上で作られ、記憶され、蓄積された大量の情報
も、社会に大量にあふれ出だし、そして大量消費時代が始まったの
である。この大量の情報をどのように賢くスマートに消費するか?
この模索が始まっているのである。
昭和歌謡曲はZ世代にも好評である。好評の前提が、昭和歌謡曲
を実際聞いていることにある。スマートフォーン、端末機のネット
ワークが進化し、YouTubeで洋の東西・世代を問わずあらゆる
曲、大量の曲を聞くことができる。これも又コンテンツの大量消費
時代の始まりである。
大量の曲を聞くという消費行動において、YouTubeで聞きまくる
には、昭和歌謡曲特有の長いイントロが邪魔になる。そのためにイ
ントロを飛ばして聴くニーズが出てくる。ネットで見るドラマ・ア
ニメに共通して前回のイントロを飛ばす機能がついている。コンテ
ンツの大量消費時代の新しい消費行動である。
一曲一曲を丁寧に手作業で作り、時間をかけて社会にプロモート
し、息の長いヒット曲を作ってきた。今はちょっとした家庭のパソ
コンでAIを使い、無限に楽曲、作詞を作らせてしまうことができ
る。短時間で何曲、何十曲と作成し世に出すことができる。
昭和歌謡の方がゆっくり聞ける。最近のJpop、Kpopは昭和
歌謡に比べてイントロがなく、テンポが速く、強引にサビに入って
くる。Z世代の率直な意見である。大量消費の反動もあるわけだ。
では選挙におけるタイパ行動はどのようなものになるのだろうか?
まだまだこれも始まったばかりである。少なくとも「マスメディア
vsSNS」と言うような、都合が悪い方を一方的に断罪するよう
な情報消費(理解)は求められていない。これを見誤ると選挙には
勝てないだろう。
真偽を証明できない大量の情報を消費(理解)するすべは、少なく
ともこれまでのどのレベルの学校でも教えてもらっていない。Z世
代でなくても明確なすべがない状況だ。シニアのように、既成情報
以外は初めから距離を取ってしまえば悩む必要もないかもしれない。
まだ価値観、新年が明確でない若い世代は、ちょっとした風が吹い
ただけで、皆が一斉になびいてしまうかもしれない。タイパ世代が
Z世代に限られると言うのであれば、大量選挙情報をどのように消
化するか?と言う選挙の結果を左右するキー世代がZ世代になる。
どの様に大量情報、コンテンツを消費するか?模索が始まったばか
りである。IT革命の期間が50年、80年と要するのであれば、ま
だ最初の25年のフェーズ1が終わったばかりである。情報の大量
生産・蓄積・閲覧が可能になった。これをIT革命のフェーズ1と
する。
これからいよいよ次のフェーズ2が始まる。スマートな大量消費
に必要な技術革新、仕組み構造、プラットフォーム、概念理論の開
発である。
そのうえで更に次のフェーズ3に移行し、その結果としての新し
い社会、それが民主主義なのか社会主義なのかはたまた違うイデオ
ロギーなのかわからないが、登場するのではないか?その変革の移
行過程で様々なフリクション(戦争)も起きるかもしれない。
先般、中日新聞(11月15日)に今話題の名古屋市市長選挙の候
補者の政策が特集されていた。そのテーマが名古屋のインバウンド
政策をどうするか?であった。
中日新聞が引用している観光白書のデータによると、訪日客の訪問
先での消費額(2023年度)が、東京都1兆1268億円、大阪
6306億円、福岡1933億円、北海道1456億円に対して、愛知県
は595億円となっており、愛知県はまさに蚊帳の外だ。
訪日客数などのデータから、訪れた都市の割合を見ても、2023年
度ベースで東京が5割、大阪が4割、これに対して愛知県が5%
台だ。東海三県合わせても10%に満たない状況だ。
地価経済で説明すると、コロナ禍以降の景気回復のけん引役がイン
バウンドである。全国の主要都市の地価を押し上げた理由として一
番に挙げられるのがインバウンド消費である。
ちなみに2024年3月の公示地価を見てみると、商業地の上昇率
が東京圏で5.6%、大阪圏で5.1%に対して名古屋圏が4.3%で
ある。不動産経済の有識者の見解は、インバウンド効果がほとんど
ないにもかかわらず、名古屋経済圏の地価の上昇率は、極めて“優
秀”と言う評価である。
地価上昇のけん引役はもちろんトヨタ関連の収益である。しかしそ
の一方で、将来のインバウンド効果を見越したホテル、商業店舗中
心の再開発も含まれており、名古屋圏の地価上昇をけん引している
という報道もある。
もし今後もインバウンド効果が期待できなければ、地価を上昇させ
続ける理由がなくなる事になる。来年の名古屋圏の地価はどうなる
事であろうか?
先にインバウンドの政策について、軽く議論しておこう。今やイン
バウンド政策は国家の存亡を左右する位置づけがなされており、特
に地方都市では、生き残るための唯一の活路となりつつある。当た
る当たらないか?はまさに地方都市の殺生与奪である。
近隣の岐阜を例にとれば、岐阜は金華山と言う歴史資産を持ち、以
前より斎藤道三を歴史的背景として育ててきた。しかし最近のブー
ムに目ざとく、織田信長を歴史的主要背景に修正してきた。
元より、斎藤道三と織田信長は敵同士であり、織田信長こそかつて
は岐阜の敵である事をうたい文句にしてきた。しかし観光産業で斎
藤道三では歴史的背景、知名度が弱いとみると、すかさず織田信長
のブームに乗り換えてきた。節操がないが・・・。
まさに地方で行われている観光産業立国としての国盗り合戦を行っ
ているわけだ。これに比べて愛知県は、日本中で比類のない三英傑
を擁し、この上ない観光産業ポジションを持っていると誤解し、さ
して振興努力をしていないという批判を免れない状況だ。
日本全国でそもそも「三英傑」と言う言葉が通じるのも名古屋だけ
である。家康は駿府、江戸であり、秀吉は大阪である。「三英傑
て、何?」であるが、名古屋だけが三英傑と言う言葉で完結してし
まっている。工夫の進化がない。
これに対して、名古屋城再建などが振興政策の例ではあるが、なぜ
か愛知知事が批判してしまっている。政治的な駆け引きの材料にさ
れてしまっている状況だ。まるで愛知県のジブリパークの敵のよう
な位置づけだ。
市と県が不仲であれば、当然愛知県内の産業振興の一枚岩になれ
ず、振興が成果を得るわけがない。「尾張は城でもつ」が愛知県に
行くと疎んじられてしまっている。と言ってしまうとまた愛知県に
不評を買ってしまうか?
政令都市と言えども、市役所は上位行政庁である県庁に対して敬意
がなく、県は歴史・規模で優る市に対する配慮が全くない。互いの
立場の政治的エゴを優先すれば、損するのは県民であり、市民であ
る。
さて、このようにインバンド政策に後れを取っている名古屋経済圏
であるが、上記のように地価経済がインバンド産業が振るわないに
も拘らず他の地方都市に比べて好調である。
更に、百貨店小売業が、実はインバンド効果で何とか横ばい業績を
維持できている東京、大阪に引けを取らず堅調であり、地方都市の
中では優位になっている。特に名古屋駅前の百貨店はインバンドの
恩恵がないのに堅調に成長しており、日本全国から注目されてい
る。バレンタインデーのチョコレート商戦など独自の百貨店ビジネ
ス企画力が高く評価されている。
インバウンドなし、名古屋経済圏の内需だけで、堅調を維持してい
るのが特徴である。この内需の牽引役の一つが言うまでもなくトヨ
タ企業群の利益である。
ここでの議論の結論は、インバウンドはインバウンドで頑張るとし
て、その遅れを嘆く前に名古屋の優れている点を再認識すべきであ
る。
名古屋経済圏の好調を維持するべく、域内の生産性を上げるべき
様々な政策を進める議論が必要である。新たなインフラとして栄と
大須、金山を結ぶ都市型ライトレール(LRT)の整備をあげたい。
都市型ライトレールとは昔の路面電車(名古屋の愛称、チンチン電
車)である。名古屋でこれまでよく登場する構想は、名古屋駅前と
栄を結ぶLRTである。これにより名古屋駅前リアと栄エリアをネ
ットワークして経済効果を上げる構想である。
今ここで弊社が構想するのは、栄、大須、金山エリアをネットワー
クして名古屋市民の消費行動の生産性をより高くするものである。
名古屋の物販消費は栄、大須、金山が中心である。このエリアの生
産性を高める新交通システムである。
比較するわけではないが、地下鉄東山線の「柳橋新駅」よりその整
備経済効果は、はるかに大きい。このラインが軌道に乗れば、次に
名古屋駅-名古屋城-栄のインバウンドラインを新設して、栄-金山
ラインにつなげ名古屋のインバウンド政策と内需のネットワークを
実効性あるものにできる。
栄-大須-金山のLRTは名古屋経済圏の内需成長に非常に大きなイ
ンパクトをもたらすと考えられる。将来の名古屋駅-名古屋城-栄-
大須-金山LRTの名称は「名古屋めしライン」でどうだろうか?名
古屋駅の味噌煮込み、栄のひつまぶし、大須の矢場とん、金山の手
羽先だ。ぜひ整備計画に格上げしてもらいたい。
名古屋は、海外からのインバウンドの前に、日本全国からの来名客
の開発余地がまだまだあるエリアである。やれることはいくらでも
ある。
以上
名古屋ビジネス情報、 不動産、 街づくり、 地価、 都市経済、 投資利回り、 金融、 、 、 、 、 、