主筆:川津昌作
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取り上げる内容については、成熟した定説を取り上げるのではなく、早熟なテーマを取り上げるため、後から検証すると拙速な結論になってしまっていることもあります。
そう言った事を十分にご理解したうえで、ご参考にしていただきますようお願い申し上げます。
2040年までに行政職員40%減時代の ―新たなるデジタル情報 不動産ID―
〈2024年12月1日〉
今回の議論の背景にある問題を先にあげておく。2040年までに行
政職員が40%、最悪70%減る。と言う予測が東京都庁などで懸念
されている。名古屋などの地方ではそれほど取り上げられていない
が、今の半分のマンパワーで、更に新しい多くの行政パフォーマン
スが要求される時代に15年ほどでなるわけだ。
過日、2024年度日本不動産学会秋季全国大会が開催された。今回
のシンポジウムのメインテーマが「不動産IDは社会を変えること
ができるか」である。前回のニュースレターで取り上げた「情報の
大量生産・大量消費時代の始まり」に続きここでも、新たにIT情
報が登場することになるわけだ。
不動産IDとは、現在不動産資産を識別する情報として、住所、地
番、家屋番号などがあるが、これらは多くが位置情報であり、資産
の個別のIDではない。例えば東京大学と言えばそのIDとして住
所で示されるが、大学内に収納される大量の各々校舎資産まで区別
するIDはない。
これら住所、地番、家屋番号、その他呼称を含めてすべての不動産
資産が識別できるID番号を設けることによって、資産の様々な市
場での移転履歴、行政手続き、公的課税履歴、緊急災害時の対策等
のコネクトをタイムリーに進めることができる様にするものだ。
特に最近の甚大災害時の安否確認、被害状況、その後の復旧対策に
ID識別は欠かせない。また最近の空き家問題、所有者不在不動産
問題に有効な解決策ともいわれている。
簡単に言えばマイナンバーの不動産資産版である。不動産IDはす
でに、一部民間スタートアップビジネスとして、既存の登記情報、
家屋番号を元にスタートしている。
ただし、登記情報、住所情報においては、使用されている文字に一
元性がなく、そのままIDナンバーに置き換えるには様々な問題に
ぶつかっている。その他、京都の「上がる」「下がる」表記等特有
の表記も障害となる。実際の人の経験値により、識別されている位
置情報をIDに置き換える作業は簡単な話ではない。
それでも現在かなり蓄積されてきているが、更に新たな問題が登場
している。それは公共施設には様々な秘匿性があり、公の住所に出
てこないものや、登記そのものが無いもが多い。
新たに、公共施設を含めようとすると登記情報主体のID付記が止
まってしまう。この考えから、今後の方向性としては、郵便情報に
基づく新たなID設置が有力視されている。
冒頭の、2040年までに行政職員の40%減少時代に、今と同様に
非効率な人の手で、住所、課税台帳、登記情報を付きわせて初めて
行政サービスができる状況では、社会が止まってしまうことにな
る。
そしてもっと重要なことは、単に不動産資産と言うカテゴリー内で
もIDの設置だけでなく、他の領域であるマイナンバーなどのID
との連携(紐づけ)が必要になる。これらの各カテゴリーのIDが
コネクトすることが社会実装を意味することになる。
この単に不動産IDを作るだけでなく、他のID情報をコネクトし
て社会実装させることが最終目的になる。この最終目的をクリアで
きるIDとはどのような仕組みが必要か?と言うのが今回のシンポ
ジウムの議論であった。
以上が前置きである。以下は弊社の私的意見である。
様々な報告を聞いて、不動産IDを作る難しさ、そしてコネクトす
る更なる難しさが実感できたわけだが、議論の途中から、まるで理
想郷を追いかけているような議論に感じた。
不動産IDは、難しいながら或いはコストを度外視してでも出来な
いことはないだろう。しかしこれを例えばマイナンバーカードと紐
づける作業は、困難が計り知れない。
現状すでにマイナンバー情報に限らず、銀行業務間のデータの新た
な連携等は巨額の資金を擁しながら、ことごとく失敗をしているニ
ュースが後を絶たない。
現状、散在している様々なID情報をコネクトし、ある意味汎用性
ある社会基盤を作ることは、その大義は理解できても、困難な技術
的障害が想定され、結果的に非常に大きな労力、時間、コストがか
かり、実現可能かどうかうかがわしいことは容易に想像できる。
と言うのは、仮に現状想定される様々なID情報を連携できる何ら
かのフルスペックのプラットフォームができたとしても、今後更
に、社会の深化が進む過程で、別の多くのID情報が生まれ、それ
が消費されていく。
例えば生態認識社会への移行に伴う生態情報、ゲノム解析に基づく
遺伝子情報などが想像できる。しかも何百年もの先ではなく、十数
年先かもしれない。冒頭の2040年ころの話かもしれない。
新しいID情報が必要になるにつれて、それら情報にコネクトでき
るようにプラットフォームを作りなすのは、ほぼゴールのない理想
郷を追い求めるような行為だ。
すべてにIDを付記し、余すことなくすべてコネクトすることが、
そもそも必要なことかと言う疑問から整理する必要がある。費用対
効果が到底見込めるものではない。
現況既にある程度蓄積が進んでいる登記情報をベースにした不動産
IDでは、公共施設、国有財がカバーできないからと言う理由で、
郵便情報を元に作り直す必要があるのか?ビジネス市場に参入しな
い、もしくは参入機会の少ない国有財産は後回しでもいいじゃない
のか?
発想を変えて、フルスペックのID情報のコネクトを前提とするの
ではなく、やがて到来する将来のAIで、認識区別を人間が行うよ
うに判断させて、その精度が上がった時点で、それぞれ違ったプラ
ットフォーム間を横断して情報のやり取りさせる方が、実効的だと
考える。
違ったプラットフォームの大量のIDを認識するAIの進化を期待
した方が、現実性があるのではないか?
先に、市場で実効性ある不動産IDを確立して、その便益を享受し
た方が現実的だ。現在進んでいる登記簿をベースにした民間レベル
でのID情報を、今後市場に入退室する資産に新たにID情報を付
加する。今後10年ほど蓄積を重ねれば、市場でアクティオブナ不
動産資産の大方のIDは網羅できるのではないだろうか?
登記のない公共資産は、そもそも市場に入退室することはないわけ
だから、行政が必要に感じた時(緊急対策時)に別途ID情報を付
加すればいいだけだ。
市場で必要かどうかわからない公共資産を、登記がないことを理由
に、市場で進んでいるID情報の広がりをあえて止め、やり直す必
要はないだろう。
要はタイパである。フルスペックのIDを作り、それらがすべても
れなくコネクトするような理想を追い求めて、できるかどうかわか
らない汎用性高いコネクト、もしくはやる気があるかどうかどうか
わからない公共資産のID情報のフルスペック付加を待つより、今
できる市場の実効性を優先すべきだろう。
十数年で行政マンパワーが半減する時代が到来するのなら、既存の
ジョブの生産性を2倍にするという理想を追い求めるより、まず
できることできないこと、優先すべきことそうでないことのトリア
ージを考えなくてはならないのではないか?
現実には、40-70%削減された時に、行政は都合よく民間に仕事
を振れば済むだけである。問題は社会、市場である。40-70%減
のアクティブな労働力で結果を出さなくてはならないからだ。
以上
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