土地の価格の指針として公的に発表される指標には、 国土庁が毎年1月1日時点の土地の価格として発表する地価公示 の他に、都道府県が7月1日時点の土地の評価をする基準地価がある。
図 商業地 地価公示指数 住宅地 地価公示指数 地価公示変動
参考資料:弊社ワーキングペーパー「日本の地価変動の波及拡散に関するデータ解析および分析」pdf
評価の仕方は、全国の不動産鑑定士の評価に基づき、 公示価格においては国土庁の付属機関である土地鑑定委員会において審査され決められる。 目的は一般的な取引のための指標として・鑑定士の鑑定基準として・公共事業の取得算定基準として用いられる。 基準地価は都道府県知事による判定が行われる。 公示価格と同じように公共用地の取得、国土利用計画法に基づく土地取引価格の判断基準になる。 公示価格が都市計画内、基準地価が都市計画区域外まで含みます。
この公示価格の約8割が国税庁から発表される相続評価(路線評価額)、 約7割が固定資産税評価の目安と言われています。 土地関連の税負担が他に対して非常に高くなっていく状況において、市場経済にも大きな影響が出始めている。 そういった中で評価および課税システムの透明性が求められる事になる。
このような不満がでる背景には、平成6年にそれまで土地の時価の2−3割の評価であった固定資産税課税ベースが、 一気に上記の7−8割に引き上げられた事があったからである。
この7割-8割に引き上げられた結果、前述の公示地価の8割相続評価、7割固定資産税評価という基準が登場した。 この基準に対してはいろんな議論があり、国会もこの問題を取り上げた経緯がある。 平成14年松野頼久衆議院議員が固定資産税に関する質問を行い、 これに対して内閣総理大臣小泉純一郎名で衆議院議長綿貫民輔に回答をしている。
回答の要旨は以下のとおりである。
「・・・等を踏まえ、 当時の相続税評価が地価公示価格の七割を目途として行われていたことや地価安定期だった 昭和五十年代における固定資産税評価額の地価公示価格に対する割合を特別区及び道府県庁所在市の基準宅地についてみると、 全国平均で昭和五十四年度は六十一・四パーセント、 昭和五十七年度は六十七・四パーセントであったこと等から宅地の評価について七割評価を導入することとしたものである。」
しかしこの安定していたという昭和50年代の地方税の内訳を見てみると、昭和57年で全国の地方税収入7兆9282億円に対して、 個人市民税39.6%、法人市民税13.1%、固定資産税29.2%である。 これに対して7割調整後の現在の全国の地方税収入の内固定資産税の内訳は平成14年以降で40%超という割合になっている。
全国地方税収入合計の構成比%
平成 地方税計 個人市民税構成比 法人市民税構成比 固定資産税構成比 昭和56 7兆2557億円 39.1 13.7 29.2 昭和57 7兆9282億円 39.6 13.1 29.8 平成14 14兆9780億円 34.0 8.4 43.6 平成15 14兆5905億円 33.6 9.3 43.1 平成16 15兆0400億円 32.5 10.0 43.6 平成17 16兆1206億円 32.8 10.6 43.3 平成18 16兆6282億円 34.9 11.7 40.7 平成19 17兆8091億円 37.9 11.4 38.7
上記資料(市町村決算状況調)から自治体収入の税収の内訳がこの7割調整によって大きく影響を受けていることがわかります。
その一方で成熟した日本社会では、行政サービスに対するニーズは拡大するばかりである。 それに合わせて税収入の拡大を図る必要があるのは確かである。
しかし市場における資源の適正な配分をゆがめてしまうような税制は効率的な市場経済の支障となる。 そればかりか、一度拡大した行政システムを修正する事は非常に難しい。 これは行政当局自身が最も懸念している問題でもある。 一部所の自由な裁量権が返って行政全体への風当たりを強くしてしまい、適切な税収入の配分に支障をきたすという意見である。。
それでもなぜそこまで他の税に比較して、叉以前よりましてこれらの資産評価に透明性が要求されるのかと言えば、 まずこれらの資産評価に基づく税コストが非常に高額になっている事があげられる。 経団連が2001年に出した提言「不動産流通課税の廃止を求める」のなかでは、 土地を4億円で購入し、建物を6億円(@20万円/m2×3,000/m2)で建設 専有床540坪、賃料2万円/坪/月、空室率5%と想定し、試算がなされているが、 結論は「流通・建設段階の課税は、初年度のビル管理収益を上回る重さ」としている。登録免許税、不動産取得税、土地特別保有税、固定資産税など全てこれの評価に基づいている。
次に、企業会計において、時価評価の採用により、 地価の変動がそのまま企業の存亡を左右させる状況にもなりかねない、 非常に重要な要素になり始めていることがあげられる。 保有資産の評価が下がり債務超過になれば、銀行からの融資が受けられなくなる。 操業の関係なく地価公示が発表されたらいきなり資産が減耗し、 債務超過になり銀行取引停止にもしなったら、 そもそもこれらの地価の評価自体が正しいのかという説明が当然要求されることになる。 企業の資産の評価はそのまま市場での株価にも非常に大きな影響を及ぼす。 こうなると今度は地価の発表前にインサイダーな株価操作の危険すら出てくる。 このような理由から地価の公的な形成のあり方に対して、非常に強い関心が高まっていった。
本来土地などの資本財は長期的な運用によってその果実を得ることができる。 しかし時価会計で常に短期的にその運用結果の情報開示が求められて、 大きな変動も無く定常的な成長のみをよしとするアナリスト判断が優先される状況では、 土地などの資本財が産業資本財としてではなく、金融資本財化させてしまっている。
もちろんこれはアナリストの質にもよるが、 現実に5年先10年先の長期的なリスクを分析できるアナリストは単なる予想屋になってしまうことも事実であろう。 日本のように資産の中で土地の価値のウエイトが大きい経済システムで、 時間をかけずにグローバルスタンダードをそのまま導入することに、 どれだけの意義があったのであろうか大きな疑問を感じる。
このような状況では企業は、産業資本財として土地を保有することは難しくなる。 不動産関連の企業は長期的なリスク資産を扱いながら、市場からは短期的な業績要求されるという矛盾にさらされており、 企業としての存続に危機が増してしまっている。 いずれにしても土地の評価非常に重要になって来たわけだ。
このような評価額を一般の売買取引に引用する使い方としては、土地の売買、交換、共有分割をする時の価格を調べるとき、 近隣の売買事例と同じ条件を持つ近似ポイントの評価額を比較するときに頻繁に使われることがある。
ただし、これらの指数はすべて作られた意図があります。 固定資産税評価は固定資産税を徴収するため。 相続税評価はも相続等の評価があります。 又基準地価なども公共事業などの補償算定に基準が目的です。 これを違った目的に使用することは数字の持っている性格を逸脱してしまう可能性があります。 それぞれの目的を良く理解の上使用することが重要です。
しばしば銀行の支店長が知ったかぶりをして、 このあたりの土地はは相続評価の何倍くらいですかと聞きます。 土地の評価を銀行の監督官庁である財務局の路線価で評価したがる気持ちはわかりますが、 目的の違った指標で相場でしか土地の価値を見れない考え方は、 自分の銀行は地価相場(路線価)が下がれば不良債権でつぶれますよと言っているのと同じです。
土地の価格を算出するときの運用には、地域の取引に十分に精通した方の意見を参考にしてください。
当WEBでは路線評価、基準値、公示価格がリンクしてあります。 固定資産評価額は市町村役場で閲覧できます。 参考になれば幸いです。
解説 固定資産税評価額
特集:バブル経済崩壊以降地価が1/3、1/4と下がっているのにどうして固定資産税は下がらなかったのか。
バブル前ならともかく、今では地価が変動することは誰にでも理解できるはずです。
しかしバブル経済崩壊後、デフレ経済、失われた10年といわれた景気の停滞した時期においては、 自治体に入ってくる個人所得、法人所得から入ってくる税収は極端に減り、 全体の40%超をこの固定資産税に頼らざるを得ない状況になりました。 一方自治体の財政構造は変動できる可変的な政策経費に対して、 職員などの給与に当たれらる強制的経費が自治体予算の半分以上、多いところでは70%、80%を占めています。 さてそこでこの固定資産税の算定基準となる地価が大きく変動して固定資産税収入が減るとどうなるでしょう。 財政破綻です。
個人所得、法人所得を固定させることはできません。しかし土地の評価は国が行います。ここに落としどころがあったわけです。 固定資産税を増やすことを考えざるを得ない状況になっていくわけです。 収入が減ることを前提とせずに行政規模を拡大したこと、しかも民間と違ってリストラをしようとしない行政が直面する問題となったわけです。 ぜひ皆さんの自治体の財政構造をチェックしてみてください。 固定資産税評価がなぜ市場の変動に対して硬直しているかが理解できるはずです。
収益価格・時価会計・減損会計
最近収益価格が不動産資産の資産評価に使われるようになりました。 企業の財務戦略の現場ではドラスティックにこれらの導入が図られています。 不動産資産から得られる収益価格の考え方については弊社のニュースレターを参考にして下し。 時価会計、減損会計の導入の目的はいろいろあります。
・世界の会計基準に合わせるため
・企業の資産状態をタイムリーに評価すること
・収益性の悪い使い方をしている資産を市場から、競争原理により市場から淘汰させ競争力のある経済を作り上げる。
等が上げられよう。
特に時価会計の基準になる価格は公示価格です。 公示価格が市場の与える影響が非常に大きい事になります。 時価主義が採用され、企業の資産評価がこの価格により比較評価され債務超過のレッテルを貼られ、 銀行からの融資を止められることになります。 その時本当に市場価格なのかという疑義が常に問われる事になります。
不動産資産の評価価格には大きく、積算価格、取引事例比較価格、収益還元価格の3つがあります。 これに上記の地価公示などの公的価格を総称して一物四価といわれる。
積算価格は、例えばゴルフ場であれば、土地代、土地造成費、クラブハウス代・・等をビルトアップした価格です。 主に帳簿価格になります。
取引事例価格は、バブル経済時に不動産業者がよく使った価格で、近似の取引と比較して価格付けをします。
収益還元価格は、現在の収益、もしくは将来のキャッシュフローを割引率で還元して算出します。
このとき使用する割引率を、市場の普遍的なキャップレートを用いれば、市場のベンチマークとなる鑑定評価額となります。 特定のプロジェクトで、特定の資金調達を行い、それに掛かる資本コストで割引けば、 その結果その投資プロジェクトの資産評価が出される。
上記3つの評価方法はいずれも評価手法の違いに過ぎない。どれが真というものでもない。 将来のキャッシュフローが不確実なゴルフ場などは、現在の市場価格を基準にすればすべてが投資不適格になる。 不確実性を価格に織り込む技術(リアルオプション)はまだまだこれからの技術である。 その時々の市場がある意味でトレンド的なスタンダードとして、時には取引事例価格、時には収益価格を要求する。
これらグローバルスタンダードの基準の導入は、世界基準で競争力を高めて、 土地を効率よく使用して日本の経済を活性化させようというものである。 この基準に満たさないものは、市場での敗者となり退場させられる。 しかし現実には、競争力がないとレッテルを貼られて、開発資金、再生資金が集まらず放置されている不動産が増えている。
2005年以降地価が回復したが、そのほとんどは東京、大阪、名古屋の大都市のしかも都心部のみである。 周辺都市、地方都市の不動産はまったく、泣かず飛ばずの状態である。 このようにグローバルスタンダードの基準に、日本国内の市場をさらさせた結果、 一部の都心部とその他多くに地方との格差を生み出すものとなってしまった。
市場原理下における地価の形成
市場原理下の地価形成とはどの様なものでしょうか? 従来の官製の価格形成では、東京から大阪、更に名古屋、地方へと時間をかけて地価が相関変動していきます。 これは1970年から始まった、全国総合計画主義つまり「国土の均衡ある発展」による均等な社会資本整備によって、 地価の変動も東京から大阪名古屋などの地方都市へという行政序列的な波及拡散であった。 地価変動のリスクファクターは上位に位置する都市の地価変動であった。
市場原理では相関的な変動はおきません。 東京が景気回復しても、大阪が悪ければ地価の相関は起きません。 生産性が高い都市、エリアに地価が飛び火的な波及をします。 高の形成に大きな影響力を持つリスクマネーがファンドの形態をとり、投資効率の良い都市を後追いします。
日本の経済は、1985年のプラザ合意を前後して、対外的に非常に強い経済パフォーマンスを示した。 ジャパンアズナンバーワンと言われたこの時期の高い経済パフォーマンスは、欧米諸国に対して、 優れた技術だけでなく、安価な労働力、多い勤労時間によって非常に高い労働生産性によるものとも説明できる。 もしそうであるならば、この時欧米諸国と日本の間において、労働生産性(賃金)の裁定取引が行われた事になる。
つまり安い賃金による日本製品を買い、高い賃金による欧米製品に競合して欧米市場で売るという経済行為である。 賃金の裁定取引が行われたという事は、日本の賃金は均衡状態になるまで上昇する事になる。 反対に高い欧米諸国の賃金は均衡状態まで低下する。そして裁定の機会がなくなる均衡状態がうまれる。 この時に裁定がなされたのは、実は賃金だけでなく、製品の価格に大きな影響を与える地価も裁定が行われたと観る事ができる。 例え実際の地価が欧米より日本のほうが高くても、そこで生産される製品がコスト競争力があれば、 製品に原価として織り込まれる地価は裁定取引の要素となる。
このように考えると、この時期の経済パフォーマンスの裁定取引が行われていた間中、 地価は均衡状態に向かって上昇した事になる。 しかし均衡状態になれば地価の上昇は止まる事になります。 もしこの日本と欧米との間の経済パフォーマンス均衡状態が、バブル経済のピーク時と重なるとしたら、 同時にこの時、地価の上昇トレンドのピークになった事が説明できる。
更にその後、今度は、日本とアジア諸国、特に中国との間に賃金、 地価をベースにした経済パフォーマンスの裁定取引が始まったとしたら、 市場の均衡状態に向かって、中国の地価・賃料は上昇し続け、 反対に日本の地価・賃料は下がり続ける事になる。 このように日本の経済パフォーマンスの対外諸国に対する均衡と、裁定取引の考え方により、 1990年代初頭に地価がピークを迎え、その後地価が下がり続ける状況を説明する事も可能である。
裁定取引とは市場間の取引である。一度均衡状態になってもまた何かの影響で市場が変動するれば裁定機会は生じる。 裁定機会そのものがビジネスチャンスである。ビジネスは常に裁定機会を捜し求めてダイナミックに動き回る。 中国には市場がいくつも存在する。1990年代後半から日本企業の多くが進出した上海近郊の市場と、 日本市場の間の裁定機会はいずれ解消されてしまう。
しかし市場原理では、中国内で上海市場と内陸部の市場との間にまた裁定機会を求める。 市場は常に他の市場と間に裁定と均衡を繰り返していることになる。裁定を繰り返して進化していく。 もし本当に日本の戦後の地価の変動が対外諸国との裁定取引によるものであるなら、 当然デフレ経済を克服すべき地価安定政策もおのずと違ったものになろう。
国内だけの需給関係によって不動産総合収益率が良いから地価が改善する、 あるいは収益率が悪いから地価が下がり続けるという説明以外のところで市場価格が形成されるということになる。
株式・証券市場はこのような裁定理論と均衡価格理論に支配されているといわれる。これが市場原理のメカニズムである。 株式・証券市場には地価公示に該当するプライシングは無い。
参考資料:弊社ワーキングペーパー「1970−2005年の地価の公示価格推移に見る名古屋市の地価拡散に関する概説」pdf
参考
地価=キャッシュフロー÷キャップレート(利回りr)
キャッシュフロー(NOI)=家賃収入−経費
NOI;Net Operating Income
総合収益率R=インカム収益率r+キャピタル収益率g
インカム収益率:賃料などの収益率(=キャップレート)r
キャピタル収益率:資産の値上がり率(成長率)g
総合収益率=期待利回り=リスクフリーレートRf+リスクプレミアムRp
キャップレートr=Rf+Rp−g
地価=NOI÷(Rf+Rp−g)
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